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「不要不急の手術」を考える

野放しのまま氾濫する脊椎固定手術に入り始めたメス

川口浩 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長

 コロナ禍による医療逼迫(ひっぱく)が深刻である。入院できずに自宅療養中に死亡する患者さんの報道に触れると、どこの医療後進国で起こっている悲劇かと暗然たる気持ちになる。政府や自治体は、コロナ病床の確保のために不要不急の手術や入院を延期するよう要請した。これに対して「不要不急の手術などありえない。コロナ対策のために他の患者を犠牲にするのか」という反論がある。では本当に「不要不急の手術」はないのか? まず、「不急の手術」、すなわち緊急性の低い手術は診療科にかかわらず数多く存在することは確実である。では、「不要な手術」はどうか?

「傷病治療」なら公的保険の対象に

拡大shutterstock.com
 癌や心臓、脳などの生死に関わる疾患の手術は「必要な手術」である。一方、その必要性が相対的な手術には、薬物治療における医薬品医療機器総合機構(PMDA)のような公式の承認審査システムが存在しない。エビデンスレベルの高い臨床試験を手術治療において行うのが難しいからである。したがって、現状では外科医は自身の裁量で手術の是非、術式を決定することができ、「傷病の治療目的」であれば費用は公的保険の支給対象となる。もちろん、患者や家族に手術の利点と欠点を十分に説明して、インフォームド・コンセントをかわすのが前提であるが、患者や家族が医師の意向に反して手術を拒否することは極めてまれである。

 それでも最近は医療統計学の進歩によって、前向き無作為対照試験(RCT: randomized controlled trial)のような高いエビデンスレベルを持った評価が手術治療でも可能になってきた。その結果、今まで金科玉条のように信じられてきた必要性・有効性が否定された手術も散見される。

 私が専門とする整形外科は、骨折などの外傷を除けば絶対に必要と断言できる手術は限られている。整形外科領域の中でも大きな医療資源が投入されているのは脊椎(せきつい)外科で、患者も多く個々の手術費用も高額である。脊椎手術は、脊椎内の脊髄や神経への圧迫を取り除く「除圧」と、脊椎の不安定性やズレ・すべりをインプラントで止める「固定」の2種類に大きく分けられる。手術対象となる代表的な疾患としては、加齢に伴って椎間板や椎間関節が劣化することによって起こる腰部脊柱(せきちゅう)管狭窄症があげられる。従来は脊柱管を広げる「除圧術」のみが行われていたが、1980年代以降は「除圧術」に加えて「インプラントによる固定術」が頻繁に併用されるようになった。

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筆者

川口浩

川口浩(かわぐち・ひろし) 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長

1985年、東京大学医学部卒。医学博士。米コネチカット大学内分泌科博士研究員、東京大学医学部整形外科教室助手・講師・准教授、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター長などを経て、2018年より現職。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医。国際関節病学会理事、日本軟骨代謝学会理事。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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