半世紀前、排ガス規制に「抵抗」した時を想起させる
2021年09月17日
2021年9月9日に日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が記者会見で、「一部の政治家からは全て電気自動車(EV)にすればいいという声を聞くが、それは違う」「政府の温暖化対策目標は日本の実情を踏まえておらず、欧州の流れに沿ったやり方だ」と述べた(朝日新聞2021年9月9日)。
多くの国で最も重要な温暖化対策は、エネルギー起源二酸化炭素(CO₂)の排出削減である。それに対して、最も強力な「抵抗勢力」となるのは、どこの国でも、化石燃料会社、化石燃料を発電用に使う電力会社、製鉄過程で石炭を大量に使う鉄鋼会社、そしてガソリン車を作って売る自動車会社だ。
日本の場合、これまでは、東京電力、関西電力、日本製鉄、トヨタなどの各業界のリーダーが、率先して温暖化対策の強化に反対してきた。それは彼らの利益や雇用を守るためであって、その意味では企業人として当たり前の行動だとも言える。
彼らはコマーシャルなどで「エコ」「地球に優しい」というキャッチフレーズをよく使う。しかし、それに対して、日本では「ダブルスタンダード」というような大きな批判の声が、上がることもなかった。日本社会全体がそこまでの真剣度でしか温暖化問題を考えてこなかったからであり、それはそれで現実として受け止めるしかない。
しかし、昨年、気候変動を四つの重要課題の一つに掲げるバイデン政権が、米国で生まれたことによって、日本の状況も変わりつつある。すなわち、米国からの外圧で温室効果ガス排出削減目標を引き上げざるをえなくなり、菅首相は「2030年に46%削減(2013年比)」をコミットした(それまでの目標は26%)。
そうは言っても、企業によって気候変動やエネルギーの問題に関する対応の仕方や「本気度」は大きく異なり、それぞれの独自の優先順位や戦略を持っている。以下では、典型的な「抵抗勢力」の一つである自動車メーカーの電気自動車(EV)をめぐる動きについて、日本のトヨタに注目して述べる。
周知のように、現在、世界中でEVシフトが加速度的に進んでいる。
具体的には、2025年のノルウェーを筆頭に、オランダ、フランス、英国、スウェーデン、アイルランド、スペインなどが、2025から2040年までに、プラグイン・ハイブリッドを含むガソリン・ディーゼル車の販売禁止を決めているか、あるいは検討中である。
自動車メーカーでは、ゼネラル・モーターズ(GM)は35年までにガソリン車を全廃し、フォルクスワーゲン(VW)は2030年にVWブランドで欧州販売の7割以上をEVにする。メルセデス・ベンツは、2030年に全車種をEVにし、ドイツでは自動車労組がEVへの投資拡大を要求している。日本でも、2021年4月に、ホンダがグローバルで売る新車を2040年までに全てEVと燃料電池車(FCV)にする目標を打ち出している。
一方、トヨタは「ハイブリッドもEVも扱う全本位戦略」をとっており、これは実質的にはハイブリッドへの逆張り戦略とも言える。米国でのトランプ政権時代、トヨタは三菱自動車やGMなどと一緒に政権側について、カリフォルニア州が厳しい排ガス規制を独自に設定するのを阻止しようとした。これに対して、フォード、ホンダなどは、反トランプを鮮明にして、カリフォルニア州の規制強化を支持した。
このようなトヨタに対して、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください