カメラ技術の進歩とは別次元にあった撮影手法の価値
2021年09月21日
写真家の故・星野道夫さんが、この8月に、米国アラスカ州議会で功績を表彰された(ジュノー市の新聞)。星野さんが43歳の若さでテレビの仕事中に亡くなったのが1996年8月8日だから、四半世紀後の表彰となる。過去の人間、しかも外国人を表彰するという長い目を持っているところは、まさしくアメリカの美点の一つだ。星野さんを直接知る者としても、嬉(うれ)しいの一言に尽きる。
表彰の理由には、アラスカの野生動物や自然をあるがままにとらえた、一見簡単そうで実は困難な撮影による写真の素晴らしさの他に、星野さんの写真を通してアラスカの自然の魅力を知った日本人が現在に至るまでアラスカを訪れ続け、日本とアラスカの架け橋になった功績がある。
その陰には、星野さんが残した約十万枚の写真(フィルム)を、残された人々が整理して展覧会などで発表する作業を今でも続けているという努力がある。私の住むスウェーデン・キルナ市ですら写真展があった。そういう努力を厭(いと)わないほど、星野さんの写真はオンリーワンの良さ(後述)を持っているのである。
星野さんの表彰は、良い仕事は、正しく伝え続けてくれる人がいれば長く生き続けることを教えてくれる。同時に、改めて星野さんが貫き通した「現場に張り付く」大切さを思い出させてくれた。
没後25年を経ても他の追随を許さないのは、写真がカメラという技術発展の著しい道具に頼る作品であることを考えたら特筆すべきことだ。
1990年代までこそ、デジタルカメラよりもフィルムカメラの方が画質が良かったが、2000年代以降はデジカメの性能が急速に向上し、今やプロでもデジカメが主流だ。特に動物の動きを撮る場合、大量に速写して中から1枚選ぶほうが、枚数制限のあるフィルムカメラより有利だ。動物に気付かれずに撮影する技術(無人カメラなど)に至っては、カメラ本体以上に技術進化が著しい。
にもかかわらず、没後四半世紀を経た今も、星野さんの「自然と一体となった野生動物の生態」に迫った写真、特にグリズリー(ヒグマ)とムース(ヘラジカ)などの大型動物の写真は、一頭地を抜いている。
なぜか? それは、現場を体験するだけでなく、「現場と同化する」という、地球科学や動物生態学の基本に忠実な撮影態度にある
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