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新型コロナ対策は空回りしていないか?

経済的ダメージをもたらさずに「やれる対策」はまだまだある

本堂毅 東北大学大学院理学研究科准教授

最新の知見に基づいたコロナ感染症対策を求める科学者の緊急声明
http://web.tohoku.ac.jp/hondou/stat/
 「最新の知見に基づいたコロナ感染症対策を求める科学者の緊急声明」(左)を8月27日に記者会見して公表したところ、予想を超える反響があり、メディアでの報道も続いた。筆者は緊急声明および会見の世話人を務めた者である。会見では筆者の概要説明に続き、東京大学法学部教授で現役内科医でもある米村滋人氏が「感染症対策の一般的なあり方」を話し、国立病院機構仙台医療センター・ウイルスセンター長の西村秀一氏が、エアロゾル(空気)感染とは何か等をコメントした。緊急声明の賛同者となった他のメンバーも、適宜、質疑応答に加わった。

 参加した専門家の思いは様々であるが、この稿では現在のコロナ対策(自粛、人流抑制や時短営業など経済的ダメージを伴う対策ばかり進められているもの)に対する筆者個人の思いを中心に述べたい。とくに問題だと感じたのは、7月に政府や自治体、一部専門家から「対策が尽きた」という発言が相次いだことである。実際には、科学的知見に基づく実効性ある対策がほかにも存在する。また、視点をさらに広げて、専門家間の意見が異なっている場合の社会的判断のあり方にも言及したい。

空気感染するウイルスに有効な対策

コロナウイルスを運ぶのは、ドロップレット(飛沫)とエアロゾルで、一般的には飛沫は1m以内ですぐ落下するものとされ、エアロゾルはすぐに落下せず広がるものの特殊な条件が揃った時だけ感染に寄与すると考えられてきた=shutterstock.com
 ウイルスの感染経路は、取っ手など物の表面に付いたウイルスが手について、自分で自分の口や目などを触ってウイルスが入ってしまう「接触感染」と、感染者から出るウイルスを含んだ飛沫(ひまつ)やエアロゾルの吸い込みによる感染に大別される。飛沫とエアロゾルの違いは粒子の大きさだと説明されてきたが、その境界はあいまいだ。だが、世界の研究の進展により、屋内に広がって滞留するエアロゾル粒子によって生ずる「エアロゾル感染」(airborne infection = 空気感染ともいわれる)が新型コロナでの主要な感染経路であるとのコンセンサスが定着してきた。世界保健機関(WHO)や米国疾病対策センター(CDC)も認め、NatureやScience誌などでも解説論文が出版されている。

 エアロゾル感染への対策は、ひとつはマスク、もうひとつは十分な換気により屋内に滞留するエアロゾルを減少させることである。ドイツでは、昨秋に政府が5億ユーロの予算措置をし、学校を含む公共施設での換気設備設置を行っている

 日本ではどうだろう。確かにマスク着用が呼びかけられ、多くの市民が着用しているし、換気も繰り返し呼びかけられてはいる。問題は中身だ。

 マスクと言っても、日本ではウレタンマスク、布マスクもマスク着用とみなされる。しかし、前述の西村秀一氏はマスク素材による性能の違いを実験で確かめ、不織布マスクでは9割以上エアロゾル粒子を捕捉できるのと対照的に、ウレタンマスクでは5μm以下のエアロゾル粒子はほぼ素通り、布マスクも2~3割程度しか捕捉できないことを明らかにしている。

 この結果は、「実質的にマスク無し」に近い人たちが街を歩いていることを示している。筆者の共同研究者の小児科医が校医として小学校に行くと、ウレタン・布マスクがほとんどだったという。

 換気はどうだろう。1時間に2回ほど窓やドアを開ける形での換気が呼びかけられてきたが、短時間の窓・ドア開けで空気を十分に入れ換えることは困難である。さらにエアコンを利用している夏や冬に頻回に窓をあけるのは、飲食店や床屋などでは現実的でない。実際、なじみの飲食店では、春には窓やドアを開け放していたにもかかわらず、猛暑となった夏にはドアや窓を締めきってしまった。室内が暑くなればお客さんが逃げてしまうのだから仕方ない。冬の北海道で窓開けによる換気が容易でないことも明らかだろう。窓・ドア開けだけに頼った換気に持続可能性はなく、省エネの面でも問題がある。

せっかくの「熱交換換気」機能が適切に利用されていない

 冷暖房と(ここではエアロゾル粒子除去も含めた)換気を両立する方法は、室内環境学が取り組んできたテーマである。どうすればいいのかはすでに明らかにされている。しかし、そのような知見は、新型コロナ対策に十分に活用されてこなかった。

 利用できる方法としては、

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