米村滋人(よねむら・しげと) 東京大学大学院法学政治学研究科教授
2000年東京大学医学部卒。東大病院等に勤務の後、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。日本赤十字社医療センター循環器科勤務を経て、2005年より東北大学大学院法学研究科准教授、2013年から東京大学大学院法学政治学研究科准教授、2017年から同教授。法学の教育・研究を行う傍ら、循環器内科医として診療にも従事。専門は民法・医事法。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
国民の多様な意見を反映させた感染症対策の「総合戦略」が必要だ
この数週間、新型コロナウイルス感染症の新規感染者は減少を続けており、感染者数の拡大局面は一服したように見える。この間、岸田新政権が発足し、衆議院が解散されて衆院選が公示されたが、各政党のコロナ対策はこれまでのコロナ対策の失敗を十分に踏まえているようには思われない。このままでは国民の不満は解消されず、感染症対策としても不十分な状況が続き、冬場の感染者数の再拡大を招くことが強く懸念される。以下では、日本のコロナ対策のどこが誤っていたか、今後の対策はどうあるべきかにつき、詳しく論じたい。
まず、これまでの政府のコロナ対策をどう評価するかが鍵になる。筆者は、少なくとも、昨年末以来の政府のコロナ対策は、明らかに失敗だったと考える。それは、データから明らかである。コロナ感染症の国際統計指標は多いものの、人種差や各国の社会状況の違いなどから単純な比較が難しい指標も多い。しかし、各国内の2020年(同年2月~12月)の感染者数・死者数と2021年(同年1月~10月10日)の感染者数・死者数の比(2021年/2020年)をとれば、各国の違いの影響を最小化する形で2021年の各国での対策が奏功したか否かを知ることができる。
日本は、感染者数比が6.4と、2021年は前年の6倍を超える感染者を出しており、これは先進国中最悪である。感染者数自体は桁違いに多い欧米各国でもこの比は1.2~2.2程度であり、感染拡大が指摘される韓国でも4.5である。日本は死者数の比も4.3で先進国中最悪で、欧米は0.6~1.9、韓国も1.9である。2.8のロシアが突出しているが、それでも日本よりかなり低い。これを見れば、日本ほど、2020年に比して2021年の感染状況が悪化した国はなく、悪化の程度も他国に比してあまりにも甚だしい。これは、2021年の日本政府の対策が失敗だったことを意味すると考えて誤りはなかろう。
問題は、なぜこれほどまで、2021年の感染者数・死者数が増える事態を招いたかである。
オリンピックの開催が原因と考える向きも多いと思われるが、オリンピックは最後のきっかけを作ったに過ぎず、その背景には日本の感染症対策の本質的・構造的な問題がある。筆者は、その種の構造的な原因として以下の2つを指摘したい。
第1に、
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