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気候変動だけで大丈夫? 海外の投資家は、なぜ、生物多様性を重視するのか

りそなアセットマネジメント責任投資部長の松原稔さんに聞く

石井徹 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

 現代は、第6の大量絶滅時代と言われる。研究者と政府による国際組織IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)によると、人間活動の影響によって今後数十年間に、地球上に約800万種とも言われる動植物のうち約100万種の動植物が絶滅の危機にあり、種の絶滅速度は過去1千万年平均の数十倍から数百倍で、さらに加速しているという。

 気候変動に加えて生物多様性に関しても、ビジネスに向けられる目は厳しさを増している。生態系保全の対策についても欧米が先行し、日本の動きは鈍い。欧米を中心とした大手金融機関が昨年9月、「Finance for Biodiversity Pledge(生物多様性のためのファイナンス協定)」を立ち上げた。生物多様性の保全につながる資金の流れをつくるための協定には、17カ国から75の機関投資家が参加、運用資産総額は12兆ユーロ(約1600兆円)になっている。だが、日本から参加は、りそなアセットマネジメント(東京都江東区)だけだ。同社執行役員責任投資部長の松原稔さんに聞いた。

 ーーりそなアセットマネジメントは5月、日本の金融機関で先んじて生物多様性のためのファイナンス協定に参加しました。それはなぜですか。

りそなアセットマネジメント責任投資部長の松原稔さんりそなアセットマネジメント執行役員責任投資部長の松原稔さん
 松原 人類に対する大きな脅威として、気候変動には世界が注目するようになりましたが、同じような脅威である生物多様性の脅威は見えにくいのが実情です。私たちは、自然から有形無形の恵みを受けていますが、これまでの開発を中心とした活動によって失われつつあります。持続ある社会と企業経営を両立して行く上で、重要な要素の一つとして生物多様性に目を向けました。

 私たちは(機関投資家としての活動方針や報告をまとめた)スチュワードシップレポートで「将来世代に対しても豊かさ、幸せを提供する」というパーパス(存在意義)を宣言しました。迫り来る危機の中で、経済の血液と言われる金融も、存在意義を問われるステージに入ったと思うからです。「豊かさ」とは何か、「幸せ」とは何か。将来世代に何を提供するのかを、検討した結果、生物多様性が重要なテーマとして浮かび上がりました。

 ーーりそなグループは、日本の金融機関の中で気候変動対策にも前向きでした。りそなアセットマネジメントは、なぜ生物多様性の保全が重要だと考えたのですか。

 松原 投融資方針の中で、環境問題にしっかりと向き合うということ、大量破壊兵器を製造している企業には融資しないということは、グループとして随分前から打ち出していました。石炭についての対応も早かったと思います。

 りそなアセットマネジメントは、生物多様性が一回失われると、再生に果てしない時間が必要なことをインパクト評価を通じて知ったのです。

生物多様性に関するインパクト評価を表現した図(りそなアセットマネジメントのスチュワードシップレポートから)生物多様性に関するインパクト評価を表現した図(りそなアセットマネジメントのスチュワードシップレポートから)

 金融機関は、世の中の発展のために投融資をしているのですが、その中で(環境に使途を限定した債券である)グリーンボンドについて、きちんと社会インパクトを出しているのかを評価する枠組みをつくり、生物多様性でやってみました。具体的には、種の減少ではなく、森林再生にかかる時間と、失った時のインパクトを数値化しました。

 その結果、

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