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スポーツ審判は機械の目にとってかわられるのか

人とAIが協調する近未来がみえてくる

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 この欄ではかねがね、技術と社会の未来について占うことを試みてきた。たとえば数年前まで続いていた将棋のプロ棋士vs.AIの『電王戦』では、熱烈なウォッチャーとして本欄にもたびたびリポートを寄せた(『将棋電王戦の広がる波紋』他)。そこでは想定外のハプニングが多々起きたが、人とAIの関係を占う上で興味深い「トイ・プロブレム(おもちゃの問題)」だというのが、筆者の基本スタンスだった。

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 トイ・プロブレムというのは、ルールとゴールが決まっているゲームのような世界で、問題をAIで解くことだ(なので「トイ・ゲーム」と呼ぶこともある)。

 これにはネガティブな意味とポジティブな意味がある。まずそのようなルールの明示された限定世界でしか、AIが役に立たないという批判。実際、何度も訪れたAIブームがすたれた背景にも、このことが指摘される。他方、トイ・ゲームで問題解決を積み重ね、ゲーム世界を拡張すれば、やがては実用につながるという肯定的な見方もできる。

 つまり、トイ世界で先駆的に起きている問題やその解が、いずれ実社会のさまざまな場面で生じるという予測だ。その一例として、『写真判定とディープフェイク』(本欄拙稿)という文脈で、スポーツ審判にビデオ判定が導入されている。これについては、「人とAIの共同意思決定」という観点で共同研究者らと討論する機会があり、また興味が湧いてきた。

 スポーツでは特に「公平性」を求める制約・圧力が強い。また選手の「安全性」や、観客に判定の経過や証拠を見せる「説明性」の要請もある。いずれもAI技術の社会応用一般に必要な基準だ。だから有力なトイ・プロブレムとして考察する価値がある。

スポーツ審判:機械導入の歴史

 まずそもそも、各競技でビデオ判定がどんどん取り入れられてきている印象があるが、これは本当か。そこで主要スポーツにおけるビデオ判定導入の歴史を、調べられる範囲でまとめてみた(下図)。

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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