松下和夫(まつした・かずお) 京都大学名誉教授、地球環境戦略研究機関シニアフェロー
環境省、OECD環境局、国連地球サミット上級計画官、京都大学大学院地球環境学堂教授(地球環境政策論)など歴任。現在国際アジア共同体学会理事長、日本GNH学会会長も兼ねる。専門は、環境政策、持続可能な発展論、気候変動政策など。著書に、「気候危機とコロナ禍」、「地球環境学への旅」、「環境政策学のすすめ」、「環境ガバナンス」など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
バイデン政権の「野心的」政策は成功を収めるか
2021年4月の気候変動リーダーズサミットはオンラインで開催され、世界各国40人の首脳などに加え、企業や市民社会のリーダーも参加した。多くの主要国・地域がパリ協定の目標とする地球の平均気温を1.5℃に抑えるとの共通認識を確認し、2030年の温室効果ガス排出削減目標強化を約束した。ただし最大の排出国の中国は新たな削減目標を示さなかった。サミットの結果、COP26に向けた国際協力の機運が高まり、脱炭素市場を巡る国際競争の幕が切って落とされたのである。
就任以来のバイデン大統領の気候変動対策はどのように評価できるか。明らかなことは、その気候変動対策公約は過去のどの大統領と比較しても野心的であることだ。その背景には、アメリカ全土において森林火災、熱波、ハリケーンなどによる被害が顕著になっていることに加え、社会的不公正と格差の存在も大きく影響している。
そして閣僚およびホワイトハウスの人事に如実に反映されているように、公約実現に向けて政府あげての一体的アプローチを取ろうとしている。ケリー元国務長官を気候大統領特使にあて国際交渉をリードし、ジーナ・マッカーシー元環境保護庁長官を大統領補佐官として国内政策調整にあたらせるなど、ホワイトハウスと全省庁をあげた強力な執行体制を敷いている(『バイデン政権における米国気候政策に関する楽観的な展望』、マーク・エルダー〈2021〉を参照)。
また、政治的な実現性や戦略性を重視し、当初は広範な行政機関による規制(例:命令)によって実効性を高め、雇用や生活改善に焦点にあて、国民の支持を得ようとしてきた。
ただし法律の変更を伴う気候政策の実現可能性は低い。新法成立には、上院で過半数を超える60票が必要とされるからである。現在、上院は民主党50、共和党50と拮抗し、カマラ・ハリス副大統領が同数票の決定権限を持っているため、民主党がわずかに多数派となっている状況だ。したがって新法成立には少なくとも共和党から10票を確保することが必要となるが、その可能性は非常に低い。一方、新しい予算は上院の単純多数決で可決されるため、その成立ははるかに容易である。そのため、近年では、大きな政策変更は予算立法でしか実現されていない。この手続き上のメカニズムは「財政調整」と呼ばれている。
ただ、議会審議は難航している。
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