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国産第1号ワクチンの挫折から見える日本の医療行政の惨状

「医者がもうかれば国民が健康になる社会」は実現可能か?

川口浩 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長

 医療ベンチャー企業アンジェスは11月5日、開発中の新型コロナウイルスワクチンについて、昨年6月から今春にかけて実施していた治験で十分な効果を得られなかったとして「治験継続の断念」を発表した。

 このワクチンは「国産第1号」のワクチンとしてメディアで大々的に取り上げられ、多くの国民から期待されていた。しかしながら、科学的視点から見ると、このnaked plasmid DNA(キャリアを用いない裸のプラスミドDNA)ワクチンの実用化の可能性は当初よりかなり低かったと言わざるを得ない。Naked plasmid DNAの体内動態・動力学、遺伝子導入効率、標的指向性の制御には、いまだに克服できない大きな障壁が立ちはだかっているのだ。事実、これまで他の感染症を含めて世界中でプラスミドDNAワクチンの複数の臨床試験が行われたが、どれも免疫原性が低く、承認されたものは皆無である。

再生医療の早期承認制度の重罪

拡大記者会見する大阪大学寄付講座の森下竜一教授(左)とアンジェスの山田英社長、タカラバイオの峰野純一取締役=2020年3月5日、東京都千代田区
 アンジェス社は従来よりこのnaked plasmid DNAによる治療法の開発を行ってきた企業である。唯一、市場に出ている同社の製品は、下肢の動脈硬化が進行し血管が狭くなる疾患である慢性動脈閉塞(へいそく)症の治療法「コラテジェン」である。肝細胞増殖因子(HGF)を発現するnaked plasmid DNAを筋肉注射する遺伝子治療で、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)によって審査され、2019年に再生医療等製品として承認されている。

 しかしながら、この承認は「条件および期限付き早期承認制度」による「仮承認」であり、「本承認」の可否はその後5年以内の市販後試験の結果によって決定される。そして、このPMDA再生医療部の「条件および期限付き早期承認制度」こそ、「premature and unfair(未熟で不公正)」世界中から痛烈な批判を浴びた制度である。

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筆者

川口浩

川口浩(かわぐち・ひろし) 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長

1985年、東京大学医学部卒。医学博士。米コネチカット大学内分泌科博士研究員、東京大学医学部整形外科教室助手・講師・准教授、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター長などを経て、2018年より現職。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医。国際関節病学会理事、日本軟骨代謝学会理事。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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