松下和夫(まつした・かずお) 京都大学名誉教授、地球環境戦略研究機関シニアフェロー
環境省、OECD環境局、国連地球サミット上級計画官、京都大学大学院地球環境学堂教授(地球環境政策論)など歴任。現在国際アジア共同体学会理事長、日本GNH学会会長も兼ねる。専門は、環境政策、持続可能な発展論、気候変動政策など。著書に、「気候危機とコロナ禍」、「地球環境学への旅」、「環境政策学のすすめ」、「環境ガバナンス」など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
COP26から日本の脱炭素化を考える(下)
脱炭素社会への移行には、温室効果ガス(GHG)の排出量が多い産業が大きな責任を負う。自動車産業は、その中でも最も重要な産業の一つである。なぜなら燃料の燃焼による世界の直接的CO₂排出量の24%を輸送機関が占め、その中でも乗用車は最大の45%を占めているからである。
COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)期間中の11月10日、販売される全ての新車を電気自動車(EV)などのゼロエミッション車とすることを目指す共同声明が発表された。これには英国やスウェーデン、カナダ、チリ、オランダなど24カ国(その後署名国が追加となり28カ国)と、ドイツのメルセデス・ベンツ、米国ゼネラルモーターズ(GM)、米国フォードなどの自動車メーカー11社・団体などが同声明に署名した。
一方、日本、米国、中国、ドイツ、また日本の自動車メーカーや、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)、BMWなどは署名しなかった。
声明では具体的には自動車の主要市場で2035年までに、世界全体では2040年までにガソリン車やハイブリッド車など内燃機関を使った新車の販売を停止し、排出ガスを出さないEVや燃料電池車に移行するとしている。この声明には投資家や金融機関も加わり、ゼロエミッション車への移行の加速を支援するとした。金融機関は、消費者、企業、充電インフラ、製造業者に対して資金および金融商品を提供するとしている。主要国が参加していない有志国連合の取り決めには、その影響力は不透明だが、電気自動車(EV)など、ゼロエミッション自動車への移行の潮流は確実に加速している。
ちなみに2020年のEV販売台数は表1のようになっており、日本の立ち遅れが際立つ。
EVの普及がもっとも進んだ国のひとつとしてノルウェーがあり、2020年の新車販売台数におけるEVの占める割合は約54%に達しているとCNNが報じた。ハイブリッド車も含めればその割合は83%に達し、ガソリン車とディーゼル車のシェアは17%まで減少している。ノルウェーは大規模な税制上の優遇策を通じて、2025年までに、新たに販売されるすべての新車とバンについて排ガスの出ない「ゼロエミッション車」とすることを目指している。
一方、日本の自動車メーカーは、ガソリン車を中心とする世界のメーカー別の販売台数(2019年)では上位10社中に3社が入っているが(図)、電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売台数(2020年)では、上位10社に一社も入っていない(表2=日産が14位、トヨタが17位)。ハイブリッドでは先陣を切った日本メーカーではあるが、急速に進む世界のEV化に後れをとり、世界からはハイブリッド市場の存続を図っているとみられている。
日本でEVが伸び悩む背景には、専用の充電スタンドが十分整備されていないこと、エンジンとモーターを使い燃費性能が高いハイブリッド車の種類が充実していることなどがあげられる。また、日本では、電源の7割以上を火力発電に頼り、再生可能エネルギーの普及が遅れていることもEVの普及が加速されない要因の一つである。