米山正寛(よねやま・まさひろ) ナチュラリスト
自然史科学や農林水産技術などへ関心を寄せるナチュラリスト(修行中)。朝日新聞社で科学記者として取材と執筆に当たったほか、「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会「グリーン・パワー」編集長などを務めて2022年春に退社。東北地方に生活の拠点を構えながら、自然との語らいを続けていく。自然豊かな各地へいざなってくれる鉄道のファンでもある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
環境への高い適応力を生かして、新たな繁殖地を開拓中
新しい全国鳥類繁殖分布調査の結果が2021年秋、環境省などから発表された。この調査は日本国内で繁殖する鳥について、現在の分布状況と以前の調査時期からの変化を明らかにするものだ。今回は2016年から21年にかけて調べられ、過去2回(1974~78年と1997~2002年)の結果と比較された。ガビチョウやソウシチョウなどの外来種、キビタキやサンショウクイといった樹林に生息する種は増えているが、ツバメやゴイサギなど農地や湿地のような開けた場所を利用する種は減る傾向にあるという。
報告書には記録の得られた379種のうち278種について、その繁殖分布図が描かれている。それを眺めていく中で私が関心を持ったのは、過去に国内で繁殖が報告されていなかったジョウビタキが、長野県や岐阜県などで繁殖するようになったと記されていることだ。過去2回は空白だった日本地図の中に、今回は繁殖の確認や可能性を示す赤や青の点が20カ所以上も打たれている。
ジョウビタキは大陸のロシアや中国方面で繁殖し、晩秋になると大陸から越冬のため日本へ渡ってくる冬鳥として知られてきた。私の暮らす東京郊外の住宅地にも、毎年10月になると全長14~15cm(スズメとほぼ同じサイズ)の姿を見せるようになり、春を迎える4月ごろには姿を消す。
雄は頭が灰色で顔や翼は黒く、胸やおなかはオレンジ色をしている。これに対し雌は全体に灰褐色をしているため、雌雄の区別はしやすい。そして雌雄とも翼に目立つ白斑があって、他の種との識別もしやすい。ビギナーを含めた多くの野鳥観察者が、大陸から渡ってきたジョウビタキの姿を見て、冬の訪れを感じ取っていたはずだ。そんな「冬の使者」が、夏の間も国内にとどまって新たに繁殖を始めているというのだから、ちょっと驚いた。
調べてみると、日本でジョウビタキが繁殖したはっきりした報告として、1983年6月に北海道上士幌町(かみしほろちょう)の温泉街で5羽のひなが巣立ったという例があった。ただし翌1984年以降は観察されておらず、あくまで偶発的な繁殖例と考えられてきたそうだ。
ところが2010年6月