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再び感染者が増え始めた初期段階の今こそ、速やかに科学性・効率性ある対策を

エアロゾル感染防ぐ不織布マスクと換気の徹底 変異株にも、医療・経済両面にも有効

本堂毅 東北大学大学院理学研究科准教授

拡大電子顕微鏡で見た新型コロナウイルス=米国立アレルギー・感染症研究所提供
 筆者は、昨年8月18日に公表した「最新の知見に基づいたコロナ感染症対策を求める科学者の緊急声明」で世話人を務めた。「緊急声明」は、空気感染(エアロゾル感染とも呼ばれる)が新型コロナウイルスの主たる感染経路であることを前提に、ウイルス対応のマスク装着についての市民への速やかな周知と必要な制度的措置など、社会が取るべき対策を具体的に示したものである。「緊急声明」については、筆者の昨年9月の論考も参照されたい。

 「緊急声明」で示した提案は、空気感染対策がより重要と指摘される今般の新たな変異株・オミクロン株についても変わらず成り立つことは無論、さらに重要性を増している。しかるに、市中感染をめぐる政府や分科会関係者の発言・対策からは「声明」の科学的知見が理解できていないことが明らかである上、実効性の低い対策も目立つ。

 感染症対策の基本は感染者の増加を抑えることにあるのに、その「抜け穴」が見落とされ、効率性の低い対策が優先されている。この現状では、場当たり的対応がまたも繰り返され、医療面、経済面双方の被害も大きくなることが予期できる。そこで、「緊急声明」以降の学術的知見も加え、問題点と改善策のいくつかを列挙する。経済面を含めた被害を最小化するために、対策の速やかな改善と国民への真摯(しんし)な説明が必要だろう。

ウレタン・布製マスク「やってる感」の深刻な問題

拡大空気感染は主に感染者の口腔から空間に放出されるウイルスを含んだ飛沫より小さな粒子であるエアロゾルが空間に滞留する量(濃度)に応じて起こる。ウレタン製のマスクや布製のマスクは、直接下気道に吸い込まれ肺炎のリスクを高める粒子径5μm以下のエアロゾルの吸入阻止に無力である(「緊急声明」から)=shutterstock.com
 感染者の抑制に、ウイルス対応マスクが最も重要な役割を持つことは、既に世界的に知られた科学的事実である。日本では、新型コロナ以前から不織布マスクをする習慣が根付いていたことから、欧米と比較して感染拡大が抑制されてきたとの指摘があり、事実であろう。

 新型コロナウイルスでは、テーブルの上やドアの取っ手などに触ってウイルスがついた手で、自分の口や目などを触ってウイルスが入ってしまう「接触感染」は、ウイルスを含んだ飛沫(ひまつ)やより小さな粒子であるエアロゾルを吸い込むことによる感染に比べてまれであることもこれを裏付ける

 しかるに、昨年春の不織布マスク不足や、感染抑止効果の低い布素材のいわゆる“アベノマスク”配布などの影響からか、不織布マスク不足が解消された現在でも公共交通機関やスーパー、デパート、学校、職場など、不特定多数の市民が出会う屋内で、ウイルス濾過(ろか)性能の乏しい、つまり、ウイルスを防ぐ性能が劣るウレタン素材や布製などの「マスク」着用者が少なからず存在し、感染対策の深刻な抜け穴となっている。スポーツクラブのロッカールームでも、筆者の知る限り、スタッフも含めて過半数がウレタンマスクである。

 現在では過半数の市民が不織布マスクを着けていることから、ウレタン製や布製マスクの影響は大きくないとの意見も聴くが、床屋談義では建設的議論にならない。そこで、「抜け穴」の影響を物理学的に見積もろう。まず、次の条件で計算してみる。

・現状)市中の3割がウレタンマスクや布マスク等を装着、ウイルス濾過性能は1割(9割が透過)とする。7割はスキマなく不織布マスクを着用、ウイルス濾過性能は9割(1割が透過)とする。
・改善後)全員がスキマなく不織布マスクを装着。9割の濾過性能がある(1割が透過)とする。
・簡単にするため、濾過性能は吸気、呼気ともに同じと仮定する。

 以下に示す計算から、不織布マスクへの変更によって、感染者から非感染者へウイルス伝播(でんぱ)量の平均が社会全体で10分の1以下となることが分かる。

 計算の詳細(マスク無しとの比。飛沫・エアロゾルは空間に均一分布すると仮定:平均場近似)

 1)現状で公共空間に放出される飛沫・エアロゾル量:

   0.3×0.9+0.7×0.1=0.34

 2)改善後に公共空間に放出される飛沫・エアロゾル量:

   0.1×1=0.1

 3)現状で公共空間で吸入される飛沫・エアロゾル量:

   0.34×(0.3×0.9+0.7×0.1)=0.12

 4)改善後に公共空間で吸入される飛沫・エアロゾル量:

   0.1×(0.1×1)=0.01

 5)1)~4)により、市中で3割の人たちがスキマのない不織布マスク着用に変わると(0.01/0.12=1/12=0.08から)ウイルスが他者に伝わる量が10分の1以下となる。

 より詳細に、布マスクとウレタンマスク装着者が2割、不織布マスクの不適切な装着者(濾過性能を5割と仮定)が約2割、不織布マスクをスキマなく装着している者が6割としても、同様の結果になる。もちろん、仮定の詳細によって具体的な値自体は変化する。

 しかし、不織布マスクをスキマなく装着することによって、市中感染の大幅な抑制ができる事実は変わらない。興味ある読者は、自ら様々な条件を設定して計算されたい。過半数の市民が不織布マスクをスキマなく着けていても、少数の市民がウレタンマスクや布マスクを着けていることが、社会全体では大きな「抜け穴」となり、市中感染を広めてしまうのである。集団免疫と同様の構造でもある。

拡大国立病院機構仙台医療センターのウイルスセンター長・西村秀一医師による実験結果。マスク着用時の実証実験とも整合している=西村氏提供
実証実験(テレビ朝日)

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筆者

本堂毅

本堂毅(ほんどう・つよし) 東北大学大学院理学研究科准教授

1989年東北大学理学部卒。1994年同大学院情報科学研究科修了、博士(情報科学)を取得。京都大学基礎物理学研究所COE研究員、東北大学大学院理学研究科助手(助教)などを経て現職。2001〜2002年フランス・キュリー研究所に滞在。専門は統計物理学、臨床環境医学、科学技術社会論など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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