エアロゾル感染防ぐ不織布マスクと換気の徹底 変異株にも、医療・経済両面にも有効
2022年01月03日
「緊急声明」で示した提案は、空気感染対策がより重要と指摘される今般の新たな変異株・オミクロン株についても変わらず成り立つことは無論、さらに重要性を増している。しかるに、市中感染をめぐる政府や分科会関係者の発言・対策からは「声明」の科学的知見が理解できていないことが明らかである上、実効性の低い対策も目立つ。
感染症対策の基本は感染者の増加を抑えることにあるのに、その「抜け穴」が見落とされ、効率性の低い対策が優先されている。この現状では、場当たり的対応がまたも繰り返され、医療面、経済面双方の被害も大きくなることが予期できる。そこで、「緊急声明」以降の学術的知見も加え、問題点と改善策のいくつかを列挙する。経済面を含めた被害を最小化するために、対策の速やかな改善と国民への真摯(しんし)な説明が必要だろう。
新型コロナウイルスでは、テーブルの上やドアの取っ手などに触ってウイルスがついた手で、自分の口や目などを触ってウイルスが入ってしまう「接触感染」は、ウイルスを含んだ飛沫(ひまつ)やより小さな粒子であるエアロゾルを吸い込むことによる感染に比べてまれであることもこれを裏付ける。
しかるに、昨年春の不織布マスク不足や、感染抑止効果の低い布素材のいわゆる“アベノマスク”配布などの影響からか、不織布マスク不足が解消された現在でも公共交通機関やスーパー、デパート、学校、職場など、不特定多数の市民が出会う屋内で、ウイルス濾過(ろか)性能の乏しい、つまり、ウイルスを防ぐ性能が劣るウレタン素材や布製などの「マスク」着用者が少なからず存在し、感染対策の深刻な抜け穴となっている。スポーツクラブのロッカールームでも、筆者の知る限り、スタッフも含めて過半数がウレタンマスクである。
現在では過半数の市民が不織布マスクを着けていることから、ウレタン製や布製マスクの影響は大きくないとの意見も聴くが、床屋談義では建設的議論にならない。そこで、「抜け穴」の影響を物理学的に見積もろう。まず、次の条件で計算してみる。
・現状)市中の3割がウレタンマスクや布マスク等を装着、ウイルス濾過性能は1割(9割が透過)とする。7割はスキマなく不織布マスクを着用、ウイルス濾過性能は9割(1割が透過)とする。
・改善後)全員がスキマなく不織布マスクを装着。9割の濾過性能がある(1割が透過)とする。
・簡単にするため、濾過性能は吸気、呼気ともに同じと仮定する。
以下に示す計算から、不織布マスクへの変更によって、感染者から非感染者へウイルス伝播(でんぱ)量の平均が社会全体で10分の1以下となることが分かる。
計算の詳細(マスク無しとの比。飛沫・エアロゾルは空間に均一分布すると仮定:平均場近似)
1)現状で公共空間に放出される飛沫・エアロゾル量:
0.3×0.9+0.7×0.1=0.34
2)改善後に公共空間に放出される飛沫・エアロゾル量:
0.1×1=0.1
3)現状で公共空間で吸入される飛沫・エアロゾル量:
0.34×(0.3×0.9+0.7×0.1)=0.12
4)改善後に公共空間で吸入される飛沫・エアロゾル量:
0.1×(0.1×1)=0.01
5)1)~4)により、市中で3割の人たちがスキマのない不織布マスク着用に変わると(0.01/0.12=1/12=0.08から)ウイルスが他者に伝わる量が10分の1以下となる。
より詳細に、布マスクとウレタンマスク装着者が2割、不織布マスクの不適切な装着者(濾過性能を5割と仮定)が約2割、不織布マスクをスキマなく装着している者が6割としても、同様の結果になる。もちろん、仮定の詳細によって具体的な値自体は変化する。
しかし、不織布マスクをスキマなく装着することによって、市中感染の大幅な抑制ができる事実は変わらない。興味ある読者は、自ら様々な条件を設定して計算されたい。過半数の市民が不織布マスクをスキマなく着けていても、少数の市民がウレタンマスクや布マスクを着けていることが、社会全体では大きな「抜け穴」となり、市中感染を広めてしまうのである。集団免疫と同様の構造でもある。
さて、政府が現在進めている対策は、マスクの適切な活用を上回る効果があるだろうか
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