そして学術会議問題 科学へ介入する政治を考える
2022年01月07日
米ハーバード大学化学部のチャールズ・リーバー教授に、いわば「科学スパイ」のような容疑がかけられ、有罪判決が出た。中国が推進する「千人計画」や、バイデン政権がそれに反発して進めるチャイナ・イニシアチブが絡む、「微妙な」事件だ。それが米国や各国の学界に及ぼした波紋は、無視できない。このリーバー教授、若いときにカルテック(米カリフォルニア工科大学)でポスドクを勤めたというし、実際同じカルテックに所属する筆者の周辺にも影響が及んでいる。まさに他人事ではない。日本の学界に対する政治の介入という視点からも、他山の石となるのではないか。
まず事件の経緯を簡単に見ておこう。このリーバー教授、ナノテクノロジーの世界的権威で、ノーベル賞候補とさえいわれた化学者だ。その超一流の研究者が、チャイナ・イニシアチブ下で起訴された2人目の学者、という不名誉を負うことになった。
中国の大学への所属と、人材誘致プログラムからの資金提供について、虚偽の報告をした(または報告を怠った)ことや、税金詐欺など6件の重罪で、2021年12月21日有罪判決を受けたのだ。ただし中国の大学への二重所属や、研究資金の提供を受けた事実そのものが、罪に問われたわけではない。そうではなくて、報告義務を怠り、その結果、税金詐欺とみなされた点が罪に問われた。
いわゆる千人計画(海外ハイレベル人材招致計画)とは、中国の国務院が科学研究、技術革新、起業家精神の観点から国際的な専門家を認定し、採用するために策定した人材獲得のための制度だ。創設は08年だが、10年に中国国家人材育成計画として強化され、10年間で7000人以上の人々を呼び寄せた。
対象は主に海外で一流教育を受け、起業家、専門家、研究者として成功を収めた中国国民だ。が、科学と技術革新における中国の国際競争力にとって重要なスキルを持つ、外国生まれのエリート専門家も少数含まれている。後者のカテゴリーの国際専門家は通常、ノーベル賞やフィールズ賞など主要な賞の受賞者で、第一に、中国にとって重要な技術分野で国際的に大きな貢献をしたこと、第二に、世界トップレベルの大学で常勤職に就いているか、国際的に重要な研究機関で上級職に就いていることが前提とされる。
一方、チャイナ・イニシアチブというのは、中国の経済スパイ活動の脅威に対抗することを目的として、米司法省が18年11月に始動した調査委員会だ。バイデン政権の中国包囲網の一環として政治的にも注目され、内外で一定の支持を得た。
ただこのイニシアチブ、(日本ではほとんど報道されないが)実は
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