メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡打ち上げ成功

ハッブルの先をめざす 新たな天文観測の幕開け

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 日本時間2021年12月25日21時20分、米航空宇宙局(NASA)が主導して開発してきたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope、以下JWST)が打ち上げられた。アメリカ天文学のフラッグシップの一つに位置づけられるこのプロジェクトについて紹介してみたい。

大気圏外からの宇宙観測

 地上から天体を観測する際には、地球大気の影響は避けられない。特に、大気による吸収を強く受けるガンマ線やX線、紫外線といった波長帯では、地上観測はほぼ困難であり、大気圏外に打ち上げられた宇宙望遠鏡が主役となる。

拡大打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡=NASA提供

 これに対して、星は裸眼でも観測できることから明らかなように、可視光では地上観測が可能である。まさにこれこそが、歴史的に天文学が可視域観測を中心として発展してきた理由である。

 宇宙望遠鏡は、地上望遠鏡に比べて、格段に高い技術的困難と信頼度が要求される。当然、巨額の予算と、多くの技術者・研究者による長い年月をかけた開発が必要だ。しかしその結果として、大気に影響されない高い角度分解能をもつ安定した天体観測が可能となる。

歴史に残るハッブル宇宙望遠鏡の成果

 数多くの宇宙望遠鏡のなかで、もっとも有名なものがハッブル宇宙望遠鏡(HST)だ。HSTはスペースシャトルを用いて地球周回軌道に載せられ、その後も、当初想定された運用期間である15年の間に数回、スペースシャトルを用いて宇宙飛行士が保守点検・修理に行くことを前提として計画されていた。しかし、1986年1月28日のスペースシャトル・チャレンジャー号の事故のため、打ち上げられたのは、90年4月24日のことだった。しかもその直後、望遠鏡が要求された精度を満たしておらず、観測画像がすべてピンボケになってしまうという重大なミスが発覚した。

拡大ハッブル宇宙望遠鏡=NASA提供

 そのためNASAは、93年12月2日、スペースシャトル・エンデバー号を打ち上げ、宇宙飛行士の船外修理によって、HSTは当初予定された性能を達成できるようになった。まさに劇的な大逆転だ。それ以降、HSTは、15年間の運用予定期間をはるかに越え、約30年間以上ほぼ休むことなく無数の天体を観測し、天文学の歴史に残る重要な多くの発見を成し遂げてきた。

打ち上げは繰り返し延期、予算は100億ドルに

 このHSTの後継機となる次世代宇宙望遠鏡は、96年に提案された。2002年には、1961年から68年にNASAの第2代長官となりアポロ計画を始めアメリカの宇宙開発の基礎を築いたジェームズ・ウェッブにちなんで、JWSTと命名された。しかしその後の開発過程で数多くの技術的問題が認識され、当初の目標であった2007年の打ち上げは繰り返し延期され、00年時点で約20億ドルと想定されていた予算も膨れ上がる一方であった。そのため、天文学者の間で、他の天文学プロジェクトに与える負の影響が懸念され、大きな議論を巻き起こした。

拡大ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を運ぶ船。米カリフォルニア州からパナマ運河を通り、16日間かけてフランス領ギアナまで運ばれた=NASA提供

 実際、11年にアメリカ下院の委員会でJWSTをキャンセルする提案が可決されたほどである。アメリカ天文学会や国際的なサポートもあり、下院ではその提案は否決されたものの、21年12月の打ち上げ時での総費用は約100億ドルに達している。ビッグプロジェクト実現のために必要となる膨大な予算は、科学の進展に伴う宿命とも言える。とはいえ、このJWSTの例は、より多様な科学諸分野のバランスのとれた発展のための予算の配分という観点からも、大きな問題を提起したと言えよう。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし) 東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に、『人生一般二相対論』(東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『この空のかなた』(亜紀書房)、『情けは宇宙のためならず』(毎日新聞社)、『不自然な宇宙』(講談社ブルーバックス)、『宇宙は数式でできている』(朝日新聞出版)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

須藤靖の記事

もっと見る