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高梨沙羅選手の失格騒動から考える 

規則の弾力的運用から生じる弊害、これって日本社会の特性でもある?

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 北京冬季五輪の新種目、スキージャンプ混合団体で、日本女子のエース高梨沙羅選手が大ジャンプを成功させたが、その直後にスーツの規定違反で失格。オーストリア、ドイツ、ノルウェーといった強豪国の選手も同じ理由で失格となり、大騒動となった。あまりにも残酷で理不尽と思い、なんらかの救済措置を期待した。だが肝心の五輪主催者や国際スキー連盟(FIS)は、及び腰にみえる。

拡大混合団体で2本目のジャンプを終え、涙ぐむ高梨沙羅(左)=2022年2月7日、中国・国家スキージャンプセンター、藤原伸雄撮影

 高梨選手はSNSなどを通じてひたすら謝罪しているが、ドイツやノルウェーの選手・監督が怒りを表しているのと「あまりに対照的」と、欧米メディアは報じた(2月9日、ロイター通信)。「成功は所属集団の手柄にする。失敗は自分のせいにし、集団にわびる」。これは(欧米文化とちがう)日本人に特有の心性といわれているから、あまりにもぴったりな対照だったともいえる。ただ本稿の関心は少しちがう点にある。

 今回の一件、情報が錯綜(さくそう)して部外者にはわかりにくい。なぜこんなことが五輪という大舞台で起きたのか。その経緯を探っていくと、規則そのものではなくて、その運用に目が向く。規則の弾力的な運用、またそうした運用に伴う慣習。ここに問題の根があるのではないか。そしてこれはこの件にとどまらず、たとえば鉄道や原発などの安全管理や、グローバル化の中で日本が遭遇する困難などにも、共通する根があるのではないか。

規則の「弾力的な運用」が、失格事件の背景にあった

 先の失格事件については、関係者の証言が集まるにつれて、次第に輪郭が見えてきた。

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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