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スター研究者の米科学顧問がパワハラで辞任

「強い」科学者の時代は終わった?

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

目玉人事の科学政策局長辞任 バイデン政権に痛手

エリック・ランダー氏=MITのHPから
 米国バイデン大統領の首席科学顧問であるエリック・ランダー科学技術政策局(OSTP)局長が2月7日に辞任した。部下の人格を否定する言動などパワハラ行為があったという訴えがあり、それを本人が認めての辞任である。

 米政府のOSTPは50人程度の職員を擁し、大統領の意向を直接確かめながら科学技術予算を策定し、科学技術政策全般に関わっていく機関だ。局長は、大統領の首席科学顧問を兼務する。バイデン大統領は、米国史上初めてOSTP局長を閣僚級に格上げし、そこにゲノム研究の草分けとして著名なランダー氏を任命した。科学を軽視したトランプ前政権とは一線を画す姿勢を鮮明に示したもので、バイデン政権の目玉人事だったと言っていい。

 その局長の辞任は政権にとって大きな痛手だろう。と同時に、ものごとをグイグイと進めていく「強い」(「マッチョな」という言葉を使いたくなりましたが、不適切だと判断し、止めます)研究者はもはや時代遅れという念を抱かせる出来事である。

 ロイター電によると、ランダー氏はバイデン大統領に提出した辞表で「私の話し方で過去や現在の同僚を傷つけていたことにショックを受けている」と表明。自身や同僚を駆り立てるため「異議を唱えたり、批判した」ことがあったとし、「私の発言や言い方が時に一線を越え、失礼で品位を傷つけるものになった」と認めた、という。

数学も遺伝学も

=shutterstock.com
 英語版のウィキペディアなどによると、ランダー氏は米国ニューヨーク生まれの65歳。高校生のときに国際数学五輪で銀メダルを取り、米国プリンストン大学へ、そして大学院は英国オックスフォード大学に進んだ。数学で博士号を取ったが、数学者になって「禁欲的」に一生を過ごすのは嫌だと思い、発生生物学の研究をしていた兄の影響を受けて生物学の勉強を始めた。マサチューセッツ工科大学(MIT)の遺伝学者デビッド・ボットスタイン氏とともに遺伝子解析のコンピューターアルゴリズムの開発に取り組み、1986年には遺伝学や分子生物学の精鋭を集めていたMITホワイトヘッド研究所に加わった。1990年にここにゲノム研究センターを立ち上げ、ゲノム研究をリードしていく。

 当時は、ヒトのゲノムの全解読を国際協力で進めようというヒトゲノム計画(HGP)が走っていた。ここには日本も入っていた。だが、国際チームの進み方はのろかった。そこへ、クレイグ・ベンター氏が率いるセレラ・ジェノミクス社が独自にヒトゲノムを解読すると乗り込んできた

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