「どうしたら、よき祖先になれるか」という問いに、私たちはどう答えるのか
2022年03月15日
『朝ドラ「カムカムエヴリバディ」と祖父の日記が伝える100年の物語』から続く
私たちは皆、過去からのギフトを受け取って生きている。私たちの祖先が残した、膨大な遺産について、じっくり考えてみてほしい。1万年前、メソポタミアの大地に初めて種を蒔いた人々、土地を開拓し、水道を引き、私たちの暮らす都市の礎を築いた人々、科学的発見を成し遂げ、政治闘争に勝利し、今に受け継がれる素晴らしい芸術を創造した人々の存在を。(中略)我々が過去からたくさんの豊かさを受け継いでいるように、我々も子孫へと受け渡さなければならない。(ローマン・クルツナリック著『グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』)
たとえば、私たちが当たり前のように享受している、選挙権や言論の自由も、その権利獲得のために、かつて不屈の精神で闘った先人が存在する。
血縁によるDNAだけでなく、この世界には、私たちが生まれる前の時代を生きた、名も知らない人たちが残したものであふれている。
しかし、私たちが生きる現代は、過去も未来も消失した「今ここ」だけの世界だ。絶え間ないスマートフォンの通知に追われ、場当たり的で、注意散漫な短期主義に陥っている。
スピードを追い求め、目先のことに走る文化が広まった結果、環境破壊から兵器の拡散といった無数の脅威に直面している未来世代への関心が失われてしまった(同)
より長期思考へ、そして自分の人生の時間を超えて私たちの行為が引き起こす結果へとフォーカスするために、時間感覚のラディカルな転換が求められている(同)
この本では、長期思考のための最小限の出発点として「100年」が提案されている。
これは現在の人間が長生きした場合の寿命の長さであり、私たちが自分の死という自我の境界を超えて、自分自身が直接関わるわけではないけれども影響を与える可能性のある未来を想像し始めるよう導いてくれる(同)
100年という時間軸は、朝ドラのストーリーと重なる。グレタがスピーチで口にしているのも、100歳まで生きる場合の想定だ。
2050年カーボンニュートラルが唱えられている現在、日本では2050年が一つのピリオドになりかけているが、私たちの想像力はたったの30年で止められるべきではない。
昨年、あるプログラムに参加した際、『グッド・アンセスター』の翻訳者、松本紹圭さんのお話を伺う機会があった。
現代仏教僧である彼は、翻訳に際し、「Ancestor」を「先祖」ではなく
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください