メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

人と野生動物との「生態的距離感」のススメ

つかず離れず共存するコロナ禍後の自然保護

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

 2020年、「3密」が「ユーキャン 新語・流行語大賞」を受賞した。技術用語は過去にもあったが、科学者が提案した用語が大賞になるのは極めて珍しい(ただし、受賞者は東京都知事)。世界中で、人々がマスクをし、抱擁や握手を自粛するようになり、「社会的距離(Social distancing)」が定着した。後に世界保健機関(WHO)は物理的距離と言い換えるよう推奨した。人間関係を疎遠にするという趣旨でなく、物理的に感染リスクを抑えつつ社会活動を続けるという趣旨だろう。

社会的距離と感染を避けるのに適切な物理的距離

 もともと社会的距離とは、アメリカの文化人類学者エドワード・ホールが提唱した「近接空間学」における対人距離の取り方について、手を取り合える親密距離、親しく会話する個体距離、簡単に手が届かない職務などでの社会距離、講演者と聴衆間の公衆距離の4つに分類し、コロナ禍で感染を避けるのに適切な物理的距離が上記の社会距離(1.2-3.7m)に一致したということらしい。もちろん、心理的な親密さの自粛を求めるものではない。

拡大暗闇の中のイノシシ=2021年12月、神戸市東灘区
 新型コロナウイルス感染症は人獣共通感染症の一つとされ、感染源として中国武漢市の海鮮市場が疑われた。そのために、特に動物愛護(animal welfare)思想と連動して、野生動物の利用そのものをやめるべきだという主張もある。他方、一部の途上国において野生鳥獣は今も主要なたんぱく源であり、その利用を止めることは非現実的と指摘されている。また、人獣共通感染症の主要な感染経路は野生動物よりも家畜や家禽(かきん)であると指摘され、一昨年から日本で再び拡大している豚熱(旧称豚コレラ)も、野生のイノシシが増えたことから、一層対策が困難になっていると指摘されている。

 国連環境計画(UNEP)の2020年の報告書「Preventing the Next Pandemic」によると、(陸上脊椎=せきつい)動物には、ペット、家畜、野生動物がある。さらに野生動物の中には人間社会に依存する、カラスやネズミのような「周辺動物(periーdomestic animal)」もいる(「Sustainable Japan」2020年7月12日) 。これらの境界は必ずしも明確ではない。たとえばネコには、家ネコ、放し飼いネコ、ノネコなどがある。

人畜共通感染症 野生動物とペットと家畜で異なる注意点

 別の文書(米疾病対策センター「Pets and Other Animals」)によれば、野生動物とペットと家畜では、人獣共通感染症の防止について、注意すべき点が異なる。基本的には
・・・ログインして読む
(残り:約1219文字/本文:約2314文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

松田裕之

松田裕之(まつだ・ひろゆき) 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

京都大学理学部および同大学院博士課程卒業(理学博士)、日本医科大学助手、水産庁中央水産研究所主任研究官、九州大学理学部助教授、東京大学海洋研究所助教授を経て 2003年より現職。GCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」リーダー(2007-2012)、日本生態学会元会長、日本海洋政策学会理事、個体群生態学会副会長。ヨコハマ海洋みらい都市研究会共同代表。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

松田裕之の記事

もっと見る