新型コロナとイベルメクチンをめぐる事例から学ぶ
2022年04月11日
科学的根拠(エビデンス)は本来、客観的であるべき指針だが、陰謀論や研究者のイデオロギーが密接に関わっており、残念ながら正しい情報が拡散されにくいという側面がある。本論考では、イベルメクチンの事例を振り返り、科学的に妥当な情報の見極め方を紹介し、読者の方の健康リテラシーの向上へ寄与したい。「ワクチン打ったから、治療薬もあるから良いじゃん」でなく、医療業界の諸所でみられるこの問題点を大勢の方にご理解いただきたいと真摯(しんし)に願っている。
猛威を振るうCOVID-19。よく効く治療薬がない。当然新規治療薬の開発が望まれるが、すでに市場に出回っている薬、しかも安いものが使えるなら、それに越したことはない。これは誰しも賛同するところだろう。
きっかけは、2020年11月に投稿されたイベルメクチンについての一つの未査読論文だった。
これは、コロナによる死亡を90%以上も減弱させるという報告であった。しかも、イベルメクチンとプラセボ(偽薬)をランダムに割り振って、2集団の被験者の質をそろえる手法を用いた、信頼度の高い「ランダム化比較試験」で実施されていた(同じような2集団を比較しないと、死亡抑制がその薬の効果なのか、ほかの原因なのか、判別することができない)。規模は400人だが、当時のコロナに関するランダム化試験としては、かなり大きな規模であった。このため、これが連日世界中のメディアに流れ、「イベルメクチンこそが救世主」という言説が広まった。
そしてなんと、以降70以上の研究が行われ、”エビデンスの金字塔”と言われる「メタ解析」にて、繰り返しイベルメクチンの優れた効果が示された。
これだけ聞けば、「少なくとも何かしら良い効果はありそうだし、安いなら積極的に使うべきだ!!」と思う方は多いだろう。実際に、多くの研究(日本での研究も含め)が、それらの「科学的根拠」に基づき計画された。
しかし、大半の科学者はイベルメクチンの効果に懐疑的であった。なぜか?
大前提として、専門家は基本的に「発表された論文」をもとに科学的根拠の妥当性を検証する。医学領域では、発表論文の元データにアクセスすることはかなり難しく、論文を読む際、元データの質に関してはその著者を信じることが前提にある。
一方、捏造(ねつぞう)されたデータに基づく研究というのは、注意深く読むとわかることもある。上述の未査読論文がまさにそれだった。もとより研究手法の詳細が記述されておらず、肝心のどう患者を治療群に振り分けたかが不明瞭であった。
2020年12月、その未査読論文の著者らは加筆修正した論文を掲載。そこには患者の元データのリンクが含まれていた。だが、そのデータには複数の問題があった
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください