メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

改正博物館法が成立・公布 科学系博物館への影響は

登録施設になるメリット少ないまま 観光・まちづくりの役割加わる

篠田謙一 国立科学博物館館長、分子人類学者

 令和4(2022)年4月15日に博物館法の一部を改正する法律が公布された。来年4月に施行される。この法律は制定からすでに70 年が経過しており、この間に当初は全国で200館余りにすぎなかった博物館も5千館を超えるまでになっている。さらに時代の変遷と共に博物館に求められる役割も大きく変化したことから、現状に合わせる形で今回の法改正が行われることになったものだ。

多種多様な博物館、科学系に少ない登録施設

拡大博物館数は2018年10月時点で計5738館=文化庁のウェブサイトから
 これまで博物館の数は大きく増えたものの、博物館法の対象となる登録博物館は、それほど増えてはいなかった。たとえば科学系博物館の団体である全国科学博物館協議会では、218の加盟館のうち登録博物館は81館にとどまっている。動物園91施設、水族館60施設では、登録施設は11のみで(動物園2、水族館9)、植物園協会に所属する植物園に至っては103園の中には登録施設はない。

 自然史に関わる博物館機能を持つ組織では、この法律が適用される館の方がはるかに少ないのが現状である。これは博物館法の対象となる博物館の設置者が地方公共団体、一般社団・財団法人等に限定されており、国や独法、大学、株式会社等が設立した博物館は登録の対象となっていなかったことに原因がある。今回の法改正ではこの部分が大きく変わることになった。

 なお、国立科学博物館(以下「科博」)は従前より登録博物館ではなく、また今回の法改正でも対象から外れて、今後も「博物館相当施設」として扱われることになった。したがって、直接の影響はそれほどないのだが、当然ながら今回の法改正は日本の博物館の運営に大きな影響を与えることは間違いない。そこで、本稿では科学系の博物館の立場から今回の法改正について論じてみたい。

博物館とは――国際博物館会議が定義の見直しを議論

 博物館は、資料を収集・保管して、それを調査研究し、展示、あるいは教育を行っていくという点では共通しており、それが活動の中心となっている。ところが標本の収集・保管を要件とすると、教育系の科学館の中には博物館という概念から外れてしまうものもある。一般的にプラネタリウムなどでは標本などを持つことは考えにくい。そこで現状では、標本については有形・無形のものを含むという概念の拡張を行って包括的に捉えている。しかし当初想定した博物館の概念を超えて、数多くの博物館が設置されてきたために、それにも収まらない博物館が存在する。

拡大ICOM京都大会では博物館定義の見直し案が議論されたが、採決は見送られた=2019年9月7日、京都市左京区の国立京都国際会館
 実際、ICOM(国際博物館会議)では2006年より博物館のあり方についての議論を始めており、2019年の京都大会ではミュージアムの定義の全面的な見直しが議論されている。現在は博物館のあり方を巡っては過渡期にあると見るべきで、今回の博物館法の改正はその渦中で行われた。このような世界の趨勢(すうせい)を考えると、今回の法改正では
・・・ログインして読む
(残り:約2207文字/本文:約3391文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

篠田謙一

篠田謙一(しのだ・けんいち) 国立科学博物館館長、分子人類学者

1955年生まれ。京都大学理学部卒。博士(医学)。産業医科大学助手、佐賀医科大学助教授を経て,2003年より国立科学博物館勤務。2014年より人類研究部長を務め、2021年より館長。古人骨のゲノム解析による日本人の起源の研究を行っている。近著に『人類の起源』(中公新書)、他に『新版日本人になった祖先たち』(NHK出版)などがある。2019年『江戸の骨は語る』(岩波書店)で科学ジャーナリスト賞受賞。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです