西村六善(にしむら・むつよし) 日本国際問題研究所客員研究員、元外務省欧亜局長
1940年札幌市生まれ。元外務省欧亜局長。99年の経済協力開発機構(OECD)大使時代より気候変動問題に関与、2005年気候変動担当大使、07年内閣官房参与(地球温暖化問題担当)などを歴任。一貫して国連気候変動交渉と地球環境問題に関係してきた。現在は日本国際問題研究所客員研究員。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
日本は、ドイツの失敗とエネルギー政策への「神の啓示」をどう受け止めるのか
驚くべきことにモスクワにあるカーネギー平和財団のコレスニコフ主任研究員は、米国の「フォーリンアフェアーズ誌」の4月の最新号で、「プーチンはロシアを失う」という見出しの記事を掲げた。
プーチンはすでにウクライナを失っている。重要なのは時間だ。今のところ、ロシア世論は平静だ。しかし、孤立したロシア経済が目の前で崩壊し、賃金や雇用、必需品や医薬品へのアクセスが失われると事態は変わる。そうなると彼はロシアも失いかねない…。
要するに経済が悪化したら大統領の「幻想と恐怖に基づく政治」は危殆(きたい)に瀕(ひん)するという議論だ。それをフォーリンアフェアーズ誌といういわば世界の論壇の大舞台で展開したのだ。大統領のおひざ元でこのような大胆な論陣を張ったせいか、カーネギー財団のモスクワ事務所は突然閉鎖になった。
では、ロシア国内の経済の動きを専門家は一体どう見ているのか? 2005年までロシア大統領経済顧問だったアンドレイ・イラリオノフ氏は4月中旬の時点で米国CNNのテレビ番組で「外国へのエネルギー輸出は、連邦予算の全歳入の6割近くになる。これが途絶したら戦闘は1カ月で終わる。経済制裁のせいで、既に国の財政規模は、ほぼ半減している」と言明した。
一国の財政支出が一挙に半分になったらどれほど深刻か? 同じ規模の経済収縮が市場経済圏で起きれば衝撃は巨大だが、計画経済国家においてはそれよりもはるかに強烈な負の衝撃が襲っているに違いない。
もう一人のロシア経済の専門家でイギリス在住のアンドレイ・モフチャン氏が3月11日の時点でNHKのインタビューで述べた内容も同様の深刻さを浮きぼりにしている。
同氏は、国際的な決済ネットワーク(SWIFT)からロシアが締め出されたので、「サプライチェーンが一気に崩壊し、その結果、大規模な企業倒産が起きている」と述べた。ロシアはソビエト連邦崩壊のような大混乱の時代に逆戻りし、世界からは閉ざされ、中国にだけ開かれた全体主義的な独裁国家になった」と論じた。