その体づくりのしくみは陸上植物が繁茂し始めた約4億年前と変わっていなかった
2022年05月14日
ヒカゲノカズラ Lycopodium clavatum は山野の地表を這(は)うように広がるシダ植物の仲間だ。ただしシダ植物を、ワラビやゼンマイなどのよく知られる種を含むシダ類と、より原始的な小葉類(しょうようるい)とに大別すると後者に含まれる。冬でも緑色を保つ姿から縁起物として神事に使われる例もあるのだが、その知名度はあまり高くない。
ところが、この植物に着目してきた大阪公立大学の山田敏弘教授(付属植物園長)から「私たちのグループの研究で4億2000万年前の祖先と同じ体づくりのしくみをしていることがわかった。まさに『生きた化石』と呼べる存在で、植物では約30年ぶりの発見になる。その名のように日陰者だったヒカゲノカズラに、これからもっと光を当てていきたい」と力の込もった言葉を聞いた。新たな「生きた化石」の発見とは、ただごとではない。その意味を探ってみよう。
ここで言う「生きた化石」に必ずしも厳密な定義はないが、化石になるような太古の時代の姿を保ってきた生物を指す言葉として一般的に使われている。動物ならシーラカンスやカブトガニなど、植物ならイチョウやメタセコイアなどが、そう呼ばれてきた。
植物が水中から陸上へ進出してまもなく、その体は軸の先端部にある分裂組織が均等に二つに分かれる二叉分枝(にさぶんし)という形で成長し、つくり出されていた。古生代シルル紀(約4億4400万年~4億1900万年前)に出現して最古の大型化石植物とされるクックソニア Cooksonia、続くデボン紀(約4億1900万年~3億5900万年前)初期の地層で発見されたアグラオフィトン Aglaophytonなども二叉分枝をしていた。
現在の植物のほとんどは、体軸の先端にある二つの分裂組織の片方が旺盛に成長する単軸分枝で成長する。それに対して、ヒカゲノカズラを含む小葉類は今なお二叉分枝という特徴を残しているので、生きた化石と呼べるであろうことは以前から推察されていたのだ。
だが、確証を持ってそう主張するには、体づくりのしくみをきちんと調べる必要がある。山田さんたちのグループは、古生代のシルル紀末からデボン紀初めにあたる約4億2000万前の時代から産出される化石小葉類、つまりヒカゲノカズラに近いご祖先様と、現在のヒカゲノカズラの体づくりのしくみを比べてみることにした。
そこで
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