勝田敏彦(かつだ・としひこ) 元朝日新聞記者、高エネルギー加速器研究機構広報室長
1962年兵庫県生まれ。京都大学大学院工学研究科数理工学専攻修了。1989年朝日新聞社入社、科学部員、アメリカ総局員、科学医療部次長、メディアラボ室長補佐などを経て2021年6月に退社。現在は高エネルギー加速器研究機構に所属。著書に『でたらめの科学 サイコロから量子コンピューターまで』。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
あの電気釜覚えてる? 誕生65年、広がるデザインの認識
グッドデザイン賞をご存じだろうか。その名を知らないとしても、斜め45度正方形の「Gマーク」といえば、どこかで見たことがあると思う。
私が持つグッドデザイン賞のイメージは、電気製品とか家具、文房具などだ。だが昨秋、東京・丸の内を歩いていてたまたま、この賞の展示施設を見つけて入ってみたところ、想定外のものも並べてあった。
それは、Zoomとか東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトといった姿形のないものだった。2020年度のグッドデザイン賞に選ばれたものではあるが、「こんなのもデザインなのか?」。そう思ってグッドデザイン賞の歴史や「今」を調べてみようという気になった。
もともとよく知られた賞である。1998年に旧通商産業省から事業を引き継ぎ、賞の事務局をしている日本デザイン振興会の2020年の調査では、「良いデザインとして選ばれた証のマークであることを知っている」「意味は良く知らないが、そのマークは知っている」を合わせると、日本人の81%が知っている。
2021年度は、5835件の審査対象から1608件が受賞した。その中から金賞が選ばれ、さらにそこから大賞が選ばれた。大賞は、遠隔操作できる分身ロボット「OriHime」とそれを活用したカフェだった。お年寄りや障害者も使える「OriHime」は、「デザインで暮らしや社会をよりよくしよう」という賞の趣旨にぴったりといえるが、実はこの賞の始まりは、戦後間もないころの日本の「黒歴史」だった。
グッドデザイン賞が始まった1957年――当時の国産製品のデザインは外国製品の模倣が多く、外国から何度も抗議されていた。翌58年、特許庁意匠課長だった高田忠さんが「グッド・デザイン―その制度の実例―」(中小企業出版局)に書いた文章の冒頭はこうだ。
「日本商品の外国意匠盗用問題は、今にはじまったことではなく戦前にもしばしば問題になったが、国際問題としてとり上げられたのは、昭和二十四年、イギリスから当時のG・H・Qを通じて日本の輸出織物の意匠がイギリスのそれを盗用していると抗議されたのにはじまり、その後、陶磁器、ライター、洋食器、電気洗濯機、ミキサー、玩具など、いろいろな輸出品について、イギリスのみならず、アメリカ、ドイツなどから毎年のように抗議され、昨年九月にも藤山外相がロンドンを訪問した際、日本からボンベイ方面に輸出したベアリングの外箱の意匠が、イギリスのポーラ―ド社のベアリングの外箱の意匠に似ているというので、だいぶ問題にされたようである」
今でこそ日本の文化やデザインは盗用される側に回っているが、当時はこんな散々な状態だったのだ。