日本発で「原子力リスク回避」の環境政策を発信すべきではないか
2022年05月26日
「強まる原発回帰」と題する解説記事が、朝日新聞朝刊のオピニオン面に出ていた(2022年4月18日付、川村剛志記者)。冒頭で「脱炭素を追い風に、欧州や米国などで原子力回帰の動きが強まりつつある」と要約している。その通りだ。
このタイミングで打ちだされたのが、英国の原発増設路線だ。ボリス・ジョンソン政権が4月上旬に発表した最新の「エネルギー安全保障戦略」に明記された。英国はEUを離脱したが、原子力に前向きな姿勢をとることでは歩調を合わせたことになる。
地球温暖化と原子力事故はどちらも私たちの生命と環境に害をもたらすが、リスクの質は異なる。温暖化は、病気でいえば慢性病。患者予備軍が生活習慣を改善するように、人類は長い目で産業構造や生活様式を変えなくてはならない。これに対して、原子力事故は急性発作に似ている。発作を避けるにはリスク要因を排除することが肝要だ。原発の重大事故は自然災害のような偶発事象でも起こるから、長く運転していることそのものがリスクとなる。たとえ原発容認の立場をとるにしても、運転を続けていることがリスクを抱え込むことになるという認識だけはもっていたほうがよい。
ところが、その認識がまったくみてとれないのが、英国の新しい「エネルギー安全保障戦略」だ。その文書を英国政府の公式ウェブサイトで開くと、英国内で原子力利用を拡大する方針を明言している。そこに挙げられた数値を箇条書きにしてみよう。
・原子力の発電能力を2050年までに最大2400万kW(現在の3倍強)まで高める。
・2400万kWは電力需要予想値の25%に相当する(現在の能力は需要の約15%)。
・この目標を達成させるために最多で8基の原発を新たに建設する。
この「戦略」で目を引くのは、英国のエリザベス女王が1956年、イングランド北西部カンブリア地方のコールダーホール原発の開所式に出席したことをもちだしている点だ。この1号機は西側世界で最初の原発だった。「めざすは、私たちが開拓した技術でもう一度、世界の先頭に立つことだ」。英国人の自尊心をくすぐる故事を引いて、原子力回帰を訴えかけている。
ジョンソン政権がこれほどの原子力シフトに踏み切った理由は何か。
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