米山正寛(よねやま・まさひろ) ナチュラリスト
自然史科学や農林水産技術などへ関心を寄せるナチュラリスト(修行中)。朝日新聞社で科学記者として取材と執筆に当たったほか、「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会「グリーン・パワー」編集長などを務めて2022年春に退社。東北地方に生活の拠点を構えながら、自然との語らいを続けていく。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
葉の形にはどんな意味がある? 昆虫による加工を妨げる効果が見つかった!
草木の緑が日々濃くなる季節を迎えている。植物が広げる葉の形の違いに注目すると、多くの種類を見分けることができる。最近は、そうした形の特徴にこだわった図鑑もたくさん出版されている。種類ごとの違いを覚えて名前が分かるようになれば楽しい。そして、その違いにどんな意味があるのかに思いを広げれば、また違った発見があるだろう。
京都大学の農学部に入ったころから、そんな葉の形に興味を感じていたというのが、東京大学理学系研究科助教の樋口裕美子さん(30)だ。小石川植物園=東京都文京区、正式名称は東京大学理学系研究科附属植物園=の中にある研究室で葉の図鑑を手に「見ているだけできれいでかわいい」と声をはずませる樋口さんだが、京大の大学院に進んでも葉の形に関わる研究テーマを見つけることはなかなかできなかった。
大学院の博士課程で指導教官となった東大教授の川北篤さん(43)=当時は京大生態学研究センター准教授=は、そんな樋口さんの様子が気になっていた。そこで研究室で石川県の白山方面へ出かけた2016年夏、シソ科植物のハクサンカメバヒキオコシ(以下、ハクサン)の切れ込んだ葉を目にした時、「オトシブミに対する適応だったらおもしろいね」と声をかけてみた。川北さん自身、学生の頃に研究室の仲間を手伝って、オトシブミを採集した経験があったからだ。
甲虫のオトシブミ類は、雌の成虫が葉を巻いた「揺籃(ようらん)」をつくり、そこに産卵する。いわば「ゆりかご」と言えるこの揺籃が巻物の手紙に似ていることから、「落とし文」という名がついたようだ。実際には、揺籃を木から地面に落とすばかりではなく、木にぶら下げておくこともある。
体長1cmほどの小さなオトシブミが、規則正しく葉を加工していく様子は映像などでしばしば紹介される。そうした加工に入る前には、葉の上を入念に歩く踏査行動もする。一般的な丸い葉には普通切れ込みはないが、そこに大きな切れ込みがあれば、もしかしたらオトシブミには歩きにくいし巻きにくいのかもしれない。
それまでオトシブミに関する知識は全然なかった樋口さん。川北さんの言葉を半信半疑で聞いたが、
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