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日本政府に脱化石燃料への行動を迫るG7加盟国

G7気候・エネルギー・環境大臣会合からG7サミットを展望する

松下和夫 京都大学名誉教授、地球環境戦略研究機関シニアフェロー

G7大臣会合コミュニケのインパクト

 ドイツ・ベルリンで2022年5月26日、27日にG7気候・エネルギー・環境大臣会合が開催され、コミュニケ日本語仮訳)が採択された。このコミュニケは英文版で39ページに及び、気候危機・生物多様性減少・環境汚染という三つの地球規模の危機に対する深刻な懸念と、G7加盟国が率先して取るべき行動を包括的に示している。

 とりわけ注目されるのは、2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化することで合意したこと、そして排出削減対策が講じられていない国内石炭火力発電所を廃止する方針が共同声明に盛り込まれたことである。また、排出削減対策が講じられていない化石燃料事業への国際的な公的資金供与を2022年末までに停止することなどにもコミットした(ただしパリ協定の目標に整合する場合は各国の判断で支援を可能とする)。

 時期を明示しないものの日本政府が対外的に国内の石炭火力廃止を表明するのは初めてである。その際、「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電所」の定義が問われる(一般的には、温室効果ガスの排出量を減らすため化石燃料インフラなどにCCS〈二酸化炭素回収・貯留〉を設置することを指し、OECDルールでは、化石燃料インフラに対する排出対策としてCCSが認められている)。

 そのほか、G7を中心として気候変動への先進的取り組みを進める有志国連合である「開かれた協調的な国際気候クラブ」が「コミュニケ第57項」で提唱されていることにも注目したい。

 気候・エネルギー・環境大臣会合のコミュニケは、来る6月26日~28日に議長国ドイツのドイツ・エルマウで開催されるG7サミットの「首脳コミュニケ」に反映されることになる。また、来年は日本がG7サミットの議長国を担うことになる。

 今回の大臣会合で示されたことは、現状の政策の延長ではない大きな方向転換が日本政府には求められているということだ。来年のG7でリーダーシップを発揮するためにも、日本政府には気候変動対策の強化、そして脱化石燃料に向けた行動と政策転換が不可避である(IGESの「G7・G20サミット特集2022」を参照)。

G7サミットとG20、そしてエンゲージメント・グループの関与

 2022年は6月にドイツ・エルマウでG7サミットが、10月にインドネシア・バリ島でG20サミットが開催される。ロシアのウクライナ侵攻などにより変化する世界の地政学的バランス中で、G7の果たすべき役割が改めて問われている。そしてより多様な経済規模や政治的背景を持つ国から構成されるG20との連携の必要性が高まっている。

 G7プロセスには、サミットと大臣会合の他にも、政府から独立した様々な分野のステークホルダーが関与し、提言をとりまとめる仕組みであるエンゲージメント・グループの活動がある。T7(Think 7:世界中のシンクタンクで構成)、Y7(Youth 7:ユース)、W7(Women 7:女性)、S7(Science 7:科学者)、L7(Labour 7:労働組合)、C7(Civil Society 7:市民社会)、B7(Business 7:経済団体)の七つが公式のエンゲージメント・グループとして組織されている。コミュニケや声明などの各グループの提言は、何らかの形でサミットや大臣会合のコミュニケに反映されていく。とりわけ気候変動の緩和や、持続可能な開発目標(SDGs)の達成等の分野でのエンゲージメント・グループの役割が高まっている。

 筆者はこのうち、Think 7のプロセスに関与し、気候・エネルギー・環境大臣会合の直前の5月23日、24日にベルリンで開催されたT7サミットに招待され、公開討論のセッション「新しい地政学におけるG7の役割」において、報告と討論を行った。

拡大T7サミットの公開討論のセッションで発言する筆者(左)
拡大T7サミットで講演するヴォルフガング・シュミット連邦特別大臣兼首相府長官(ともに筆者提供)

 T7の提言(コミュニケ)は、T7サミットの直前にドイツ政府に提出されている。T7コミュニケの中では「国際気候クラブ」のコンセプトとその要件を論じ、その設立についても提言している。T7サミットにはドイツ政府との密接な協力を反映して、ヴォルフガング・シュミット連邦特別大臣兼首相府長官をはじめ、多数の関係者が出席していた。


筆者

松下和夫

松下和夫(まつした・かずお) 京都大学名誉教授、地球環境戦略研究機関シニアフェロー

環境省、OECD環境局、国連地球サミット上級計画官、京都大学大学院地球環境学堂教授(地球環境政策論)など歴任。現在国際アジア共同体学会理事長、日本GNH学会会長も兼ねる。専門は、環境政策、持続可能な発展論、気候変動政策など。著書に、「気候危機とコロナ禍」、「地球環境学への旅」、「環境政策学のすすめ」、「環境ガバナンス」など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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