下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授
カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
仮想空間で繰り広げられる闘いで身体性はどうなるか?
「戦争 v.1.5 ~ロシア―ウクライナ戦争の古い面と新しい面」から続く
前稿を受けて本稿では、ロシアのウクライナ侵攻で明らかになった戦争の新しい側面=「戦争」のフォーマット(形式・様式)更新という点に着目したい。この新しい様式では、偽情報の叩き合いとでもいうべき激しい情報戦と、戦闘の無人化が特徴的となる。さらに結論を先取りしていえば、長期的には仮想を含む空間(領土、資源)と、仮想を含む身体性とが、戦争のカギを握ることになるだろう。
まずとっかかりとして、「独裁者狂人説」を取り上げよう。今回もプーチン大統領の重病説に加えて、治療薬の副作用などから来る精神異常説が出回っている。これについては本欄でもふれたのでくり返さないが、プーチン・ロシアの出方を予測し損ねた西側「専門家」たちの、希望的観測(wishful thinking)に過ぎない可能性がある(本欄『プーチンの心理を読み違えた西側諸国 ウクライナ侵攻のパラドックス』;businessinsider, 5月29日)。さらに心理学の根本原理として、人は大きな災厄(や偉業・奇跡)の原因を、目立つ他者へと帰属する傾向がある。独裁者やヒーロー、教祖や神などがその例だ。
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