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コロナ検証会議、「分科会」をなぜ検証しない?

専門家との適切な関係づくりが喫緊の課題ではないか

尾関章 科学ジャーナリスト

 期待していたが、当てが外れた。政府のコロナ検証会議(正式名称「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」)が6月15日に出した報告書だ。

拡大政府の新型コロナウイルス対応を検証する有識者会議の初会合に臨む構成員ら=2022年5月11日
 会議は、医系大学の学長や経済人、社会学者など8人がメンバーで、5月の連休明けから会合を重ねてきた。報告書は、2年余に及ぶコロナ禍の体験を踏まえて「次の感染症危機に向けた中長期的な課題」を示すのが狙い。だが、「危機に迅速・的確に対応するための司令塔機能を強化する」ことや「科学的知見と根拠に基づく政策判断に資するため、政府における専門家組織を強化する」ことを課題として挙げながら、そのために欠かせない現状の検証が足りない。具体的に言えば、政府がこの2年余、専門家の知見にどう耳を傾け、どのように政策判断に生かしてきたかの分析が乏しいのだ。そもそも1カ月で報告書をまとめるということに無理があったのだろう。

目次に「専門家」の文字がない

 内閣官房の公式ウェブサイトに入ると、「新型コロナウイルス感染症へのこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に向けた中長期的な課題について」と題する報告書を読むことができる。A4判で20ページ余。目次には、「課題」と「方向性」を示した9項目の柱が立っているが、そこに「専門家」の3文字は見当たらない。「保健所体制の強化」や「検査体制の強化」などはあっても「専門家組織の強化」は柱の一つになっていないのである。

拡大新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議がまとめた報告書の目次=内閣官房のサイトから

 ページを繰っていくと、「サーベイランスの強化等」と題する項目の一隅に「科学的妥当性と透明性が担保された専門家の科学的助言」という小項目が見つかった。行数にして16行。専門知をめぐる検証会議の見解は、ここに凝縮されているということだろう。要約すれば、こうなる。

・危機対応の科学的議論では、データが限られていても対策を進められるような思考法があってよい(具体的には、「説明的仮説〈アブダクション〉」のアプローチが示されている)。
・危機のときでも情報を迅速に集め、共有し、分析して結果を公表できる態勢を整えることや、「専門家助言組織」を外部の専門家と連携させることが必要。
・専門家の役割は科学的な助言をすることにあり、判断を下すのは政治や行政。

 もっともな提言だ。だがこれを、どのような経験から導きだしたのかが定かではない。「専門家組織」のあるべき姿を提示するのならば、それがこの2年間どうだったかを調べることから始めなくてはならないはずだ。「検証」とはそういうことだろう。

メタの目の検証があるはずだ

拡大新型コロナウイルス感染症対策分科会の冒頭、あいさつする当時の西村康稔・経済再生相(前列右)。同中央は尾身茂分科会長、同左は加藤勝信厚労相=2020年7月6日
 不可解なのは、内閣官房が「専門家組織」として設けた「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の軌跡を報告書がほとんど跡づけていないことだ。検証会議は会合に分科会の尾身茂会長を「専門家」の一人として招き、提言などを聴き取っている。だが、「検証」というなら、分科会がこれまでどんなふうに議論を進め、どんな手順で意見を集約してきたのかを、公表済みの「議事概要」などを参考にしながら聞きただしてほしかった。分科会の助言をめぐって政府から圧力を感じることがなかったかも気になるところだ。聴き取りの席上、こうした点について質疑応答があったのかもしれないが、報告書を読む限り見てとれない。

 もちろん、同じ政府内の一組織がもう一つの組織についてあれこれ言うのは、はばかられるのだろう。だが「検証会議」の役目は、

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筆者

尾関章

尾関章(おぜき・あきら) 科学ジャーナリスト

1977年、朝日新聞社に入り、ヨーロッパ総局員、科学医療部長、論説副主幹などを務めた。2013年に退職、16年3月まで2年間、北海道大学客員教授。関心領域は基礎科学とその周辺。著書に『科学をいまどう語るか――啓蒙から批評へ』(岩波現代全書)、『量子論の宿題は解けるか』(講談社ブルーバックス)、共著に『量子の新時代』(朝日新書)。週1回の読書ブログ「めぐりあう書物たち」を開設中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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