被害確認から10年 国内の移動を阻止し、水際対策の徹底を
2022年07月18日
サクラ、モモなどのバラ科樹木で深刻な被害が報告されている外来昆虫のクビアカツヤカミキリ。幹の内部で育つ幼虫による食害で多くの木を枯死させる恐れがあり、特定外来生物に指定されている。2012年に国内で初めて被害が認められてから10年が経過し、これまでに被害の発生は13都府県へと広がってきた。被害の発生地は必ずしも隣接しておらず、それぞれへどのように広がったのかは明確でなかった。しかし、各地で捕らえられたクビアカツヤカミキリの遺伝子解析によって、複数回に分かれて海外から国内各地へ侵入したらしいことがわかってきた。
日本国内におけるクビアカツヤカミキリの被害拡大の経緯を振り返ってみよう。
最初の被害報告は2012年、臨海工業地帯のある愛知県西部の飛島村からだった。神社にあったサクラの木などが枯れた。2013年には埼玉県南部に位置する草加市の桜並木で被害が発覚した。2015年になると、東京都西部の福生市とあきる野市、群馬県東部の館林市、そして大阪府南部の大阪狭山市、徳島県北東部の板野町といった離れた場所から、被害の報告が相次いだ。
館林市の周辺では2016年以降、隣接する埼玉県北部や栃木県南部、茨城県西部へと被害が広がった。大阪狭山市の周辺でも府内から和歌山県、奈良県へと徐々に被害が拡散している。
このほか2019年には三重県、2021年には神奈川県、今年6月にも兵庫県からと、新たな被害の報告が続いているのが現状だ。
ここ数年の新しい被害地は別として、従来、クビアカツヤカミキリの研究者らは被害地が近接する場合は同一地域での発生とみなし、国内の被害地域を群馬・栃木・茨城・埼玉の県境部、埼玉南部、東京西部、愛知西部、大阪南部、徳島北部の6地域に大別していた。クビアカツヤカミキリが飛翔(ひしょう)によって被害地の近隣へ徐々に拡散するのは十分に予想できる。だが、わずか数年の間にかなり離れた6地域に姿を見せるようになった理由は、十分に説明されてはこなかった。
森林総合研究所森林昆虫研究領域の田村繁明研究員たちは、これら6地域内で2019年までに捕らえられたクビアカツヤカミキリ120匹で、ミトコンドリアDNAにあるCO1遺伝子の一部領域を分析してみた。すると、7種類(A~G)の遺伝子型(ハプロタイプ)が見つかった。しかも地域間で共通した遺伝子型はAが群馬・栃木・茨城・埼玉各県の県境部と東京西部から見つかっただけで、あとは地域ごとに独自の遺伝子型を持つ個体ばかりがいると分かった。
つまり各地域にいるのは、それぞれ海外から独立して入ってきた個体群である可能性が高い。二つの遺伝子型が見られた大阪南部には、2回の侵入があったのかもしれない。そして各個体群が持ち込まれた場所を拠点として、それぞれに分布を広げてきたという侵入・拡散の様子が浮かび上がってきた。この結果は論文として発表された。
侵入経路として疑われているのは、
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