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レガシーの重荷に苦しんでいるのは東京だけじゃない

「遺産」や「パーク」に認定された地域、苦戦と成功の分岐点は?

香坂 玲 東京大学大学院教授(農学生命科学研究科)、日本学術会議連携会員(環境学)

 6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)にも、「観光立国の復活を図り、地方創生を進める」と明記されているが、今後の観光・地域振興を目指して、アフターコロナないしウィズコロナを見据えた戦略、議論が盛り上がりをみせている。

 いわく「観光客数の総数ではなく、単価や消費額に課題あり」「通り一遍の観光地ではなく、地域固有のものを磨く」「個々の事業者や業界だけではなく地域全体での取り組みの重要性」……。

韓国の済州島では、パンフレットに世界遺産、ユネスコエコパーク、ジオパークを並べて「ユネスコ三冠達成」と誇らしげにうたっている韓国の済州島では、パンフレットに世界遺産、ユネスコエコパーク、ジオパークを並べて「ユネスコ三冠達成」と誇らしげにうたっている
 特に地域固有の魅力を発信・継承する手段として、多種多様な「遺産」「パーク」といった地域認定が検討され、実際に多くの地域が登録し、あるいは登録を目指してきた。それは国内に限ったことではなく、例えばアジア有数の観光地、韓国の済州島では、パンフレットに世界遺産、ユネスコエコパーク、ジオパークを並べて「ユネスコ三冠達成」と誇らしげにうたっている。

 ただ、遺産の登録には当初は想定されなかった思惑の違い、思わぬ落とし穴といった負の側面もある。背景には、関係者に「認められる」「お墨付きを得られる」という力みがあることもあり、その結果として長期的には功罪併せ持つ「負のレガシー」となってしまうパターンだ。

 また、新型の伝染病が収束したとしても、長期的には国内の人口減少、世界的な気候変動といった課題がある。そのため、これまでの遺産、パークといった「地域認定」の功罪について冷静に振り返り、人口減少や気候の変化までを見据えた「自然体」の展開を考えていくことが欠かせない。

 まずは地域認定の課題について考えてみたい。

課題は、温度差、利害対立、分かりにくさ……

韓国・済州島の博物館の入口には、ユネスコのジオパーク、エコパーク、世界自然遺産の3冠の認定地であることを示す看板が立っている
韓国・済州島の博物館の入口には、ユネスコのジオパーク、エコパーク、世界自然遺産の3冠の認定地であることを示す看板が立っている
 まず、登録された遺産やパークを運営する組織側の課題がある。主導していた首長やリーダーの交代により、取り組みが停滞するとか、あるいは目玉の観光地の所在する自治体以外が、自分ごととして捉えず、内省化されなかったり、消極的になったりといったこともある。

 このように、首長や組織の変化があった際の自治体内の熱意の低下、複数の自治体で登録した際の自治体間の思惑のずれなどの課題が指摘されている。筆者は、これを

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