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スウェーデンのNATO加盟で失われるもの

中立のメリットと全方位外交を捨て、「世界の警察」を自信過剰に向かわせる

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

冷戦終結で始まったNATOとの枠外協力

 同じ流れで、NATOとの枠外協力が冷戦終了後の1994年に始まった。NATOとの協力のお陰で、スウェーデンは軍事費を減らし、徴兵制度を国民皆兵から志願方式に変えることができるようになった。具体的には志願して検査に合格した者のみを「徴兵」するもので、ウクライナ危機で「国民皆兵」が再宣言されたあとも、実質的な内容は変わらない。軍縮を受けて駐屯所も大幅に縮小され、例えば私の住むキルナ市にあった第21分隊の駐屯所は2000年に廃止された。建物は小さな民間事業所群となり、敷地には住宅が次々に建設されている。国防部門の縮小は、さらにスウェーデン軍のNATO依存を高め、結果的に上記のように右派4党がことごとくNATO加盟を求めるようになったのである。

拡大1975年が3%超で、2011年には1.1%まで下がった。ロシアのクリミア占領を受けて軍縮傾向が止まり、さらにウクライナ戦争を受けて2028年までに2%(NATOと同じ)に高める方針が出ている
=スウェーデン軍の財務会計から、筆者作成

 もっとも、スウェーデンの世論はずっと加盟への反対多数で、NATOとは枠外協力で十分だとする意見が主流だった。ロシアのウクライナ侵攻を受けてNATO加盟に賛成する世論が高まっても、それは決定的ではなかった。いかにロシアが脅威になろうとも「ロシアが攻めてもスウェーデンとフィンランドだけで撃退できる」はずだからだ。個人的には9月の総選挙の公約か、国民投票で決まると思っていたほどだ。

 その意味で、侵攻から3カ月足らずでスウェーデンがNATO加盟を申請したのは、いくらフィンランド(冬戦争の悪夢があるから仕方ない)に引っ張られる形とはいえ、少々驚きだった。その背景には「勝てない侵攻でもロシアは実行しかねない」という恐怖があったのかも知れない。ともあれ、私から見ると、あれよ、あれよと言う間に、政権党の社会民主党が方針を転換したという印象が強い(左派の残り2党は反対のまま)。

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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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