温暖化懐疑論および対策不要論に改めて反論する4
2022年12月19日
今回は、池田信夫氏がGoogle日本法人社長宛てに送った公開質問状のうち、残りの質問10に回答する。
池田氏の質問10:温暖化で確実に起こることは何ですか?図10(IPCC)
海面が上昇することです。地球の平均気温は2100年までに2℃ぐらい上がると予想されていますが、これによって海面が中央値で48cmぐらい上がるでしょう。これは毎年6mmの上昇で、満潮と干潮の差は1.5mあるので堤防で防げます。
このように地球温暖化は、日本では大した問題ではありませんが、熱帯の途上国では大きな問題です。だからこれは開発援助の問題ですが、その方法としてCO₂削減の効果は不確実性が大きく、コストが膨大なので、効率が悪いと思います。
地球温暖化は自然の問題ではなく、人間の被害をいかに減らすかという経済問題です。温暖化で人類が滅亡するわけではないので、費用対効果を考えないといけません。80年後の気温を1.5℃下げるために何百兆円もかけることは、よい子のみなさんの負担を増やすだけです。
池田氏の質問10に対する回答
上記の文章には複数の間違いがある。以下のように上記の文章を4つに分けて、それぞれの間違いを指摘する。
地球の平均気温は2100年までに2℃ぐらい上がると予想されていますが、これによって海面が中央値で48cmぐらい上がるでしょう。これは毎年6mmの上昇で、満潮と干潮の差は1.5mあるので堤防で防げます。
冒頭の杉山氏の議論と同じく、リスクの過小評価と対策費用の過大評価がなされている。ロジックもおかしい。
しかも、それらは義務とはなっていないコミットメントであり、日本をはじめ多くの国が守ろうとしていない。ゆえに、今のままでは3℃以上上昇する可能性が極めて高い。その場合、最新のIPCC報告での排出シナリオ(SSP2-4.5)を考えれば、海面上昇は0.44~0.76 mとなる。
もし池田氏が言うようにCO₂排出削減などの温暖化対策は不要で、日本も含めて各国が温暖化対策を実施しなければ4℃以上上昇する(海面上昇は1mに達する可能性が高く、南極の氷床が不安定化した場合、1.5m以上の海面上昇となる可能性もある)。すなわち、「地球の平均気温は2100年までに2℃ぐらい上がると予想されている」というのは、世の中が池田氏や冒頭に名前を挙げた人たちの言うことを無視して、温暖化対策を熱心に実施したという仮定に基づいている。
また、堤防を作れば、その地域は守られるが、それ以外の地域の被害はより大きくなる。また、日本全体を堤防で囲むのも非現実的である。それこそ多額のコストをかければ可能かもしれないものの、それが理想的な国土の守り方だろうか。
このように地球温暖化は、日本では大した問題ではありませんが、熱帯の途上国では大きな問題です。
温暖化被害、具体的には台風、洪水、高温被害、山火事などに関しては、ドイツのミュンヘン再保険(Munich Re)が詳細な統計をとっている。それを用いて、ジャーマン・ウォッチ(German watch)というシンクタンクが、10数年前から温暖化被害リスクの大きさに関する国別ランキングを発表している。
ランキングを計算するための指標としては、1)死亡者数、2)10万人あたりの死亡者数、3)被害額(購買力平価)、4)GDPあたりの被害額、などを使っており、このランキングは、温暖化被害の大きさを国際比較するのによく参照されている。
その報告書の最新版(2021年1月発表)では、最新ランキングと同時に、2000年から2019年の20年間の総合ランキングも出していて、日本は57位となっている(Eckstein et al.2021)。ただし、実は日本は、2018年は1位になっている(2番目はフィリピン、3番目はドイツ)。また、2019年は4位である。この2年は豪雨と台風の被害が大きく影響したと思われる。
先進国である日本は、さまざまな社会インフラが完備しているので、基本的に温暖化の被害は途上国に比較して小さいのは事実である。しかし、前述のように、被害が国際的に見ても甚大であった年もある。
また、日本の環境省が2020年12月に出した「気候変動影響評価報告書」では、コメの品質低下や魚の分布変化、熱中症による死亡者数増加などで、評価した71項目中49項目が最も深刻な「特に重大な影響」であった。
温暖化は、ただちに命や国土の喪失につながる被害に限っても、熱波、干ばつ、洪水、暴風雨、火災、海面上昇、飢饉(ききん)、難民などをもたらす。これらは、程度は異なるものの、多くの国や地域の社会システム自体を崩壊させる。
そのような事実を無視して、ある地域の、ある特定の時期の、ある特定の問題が、重要ではないとして、温暖化問題全体を矮小(わいしょう)化するのは、論理的にも倫理的にも間違っている。これは冒頭で紹介した杉山氏や有馬氏の議論にも見られる、チェリー・ピッキング(つまみ食い)といわれる議論の仕方である。
だからこれは開発援助の問題ですが、その方法としてCO?削減の効果は不確実性が大きく、コストが膨大なので、効率が悪いと思います。
例えば昨年の夏、欧州やカナダを50℃近い熱波が襲っており、2022年になっても米国は干ばつや山火事が大きな問題になっている。すでに紹介したように、米国政府の予算管理局は、2021年時点での政策レベルが続くとした場合、沿岸災害救援、洪水保険、農作物保険、医療保険、山火事の鎮圧、連邦施設の洪水被害対策という6種類の気象災害に対する歳出(コスト)だけで、年間250億ドル(約35兆円)から1280億ドル(180兆円)が必要としている。
池田氏は、日本のことしか頭にないようだが、言うまでもなく、日本だけが先進国であるはずはない。
また、確かに何事も費用対効果を考えるのは必要である。ただし、「CO₂削減の効果は不確実性が大きく、コスト膨大で、効率が悪い」というのは明らかに間違っている。そもそも「効率」の定義も定量的な議論もなく、非常にあいまいな議論である。
CO₂排出削減をしなかった場合の被害の費用は、米国だけでみても年間数十兆円かかる。一方、CO₂排出削減などの温暖化対策を実施した場合の効果は確実であり、そのために必要な対策費用の大きさも再エネの価格低下などで小さくなっている。さらに、対策をした場合の便益は費用を上回る。したがって、「効率が悪い」というのは全く現実を無視した勝手な主張である。
地球温暖化は自然の問題ではなく、人間の被害をいかに減らすかという経済問題です。温暖化で人類が滅亡するわけではないので、費用対効果を考えないといけません。80年後の気温を1.5℃下げるために何百兆円もかけることは、よい子のみなさんの負担を増やすだけです。
温暖化対策不要論は、一言で言えば、温暖化対策の費用が負担になるから嫌だという論だと言える。だが、問われるべきは「誰の負担になるのか?」「便益を得る人もいるのでは?」「長期的にも負担になるのか?」「一部の人が既得権益を失うのを嫌がっているだけではないか?」などだ。
そして実際に、日本を含む多くの国では、声が大きくて絶大な権力を持つ一部の利害関係者(例えば、今のエネルギーシステムを維持することで経済的利益を得る人たち)の短期的な利益しか考慮されていない。
以下で、改めて温暖化対策の費用と便益について順に説明していく。
また、温暖化対策を実施した場合の様々な効果についても考える必要がある。ここで、温暖化対策を実施しなかった場合に発生する被害の費用のうち、温暖化対策を実施したことによって回避された部分は、温暖化対策を実施した場合のプラスの効果、すなわち便益の一つとして考えなければならない。
温暖化対策を実施しなかった場合、社会インフラが整っていない途上国の方が、先進国に比べてより大きな被害を受ける。しかし、それゆえに先進国での被害が小さいということではないことは、前述の米国や日本の例でわかるかと思う。
世界全体の温暖化被害に関しては、例えばKahn et al.(2019)によると、温室効果ガス排出削減がない場合、世界の平均気温が年間0.04℃上昇して、2100年までに世界の1人当たり実質GDPは7.22%減少する。一方、パリ協定を順守し、気温上昇を年率0.01℃に抑えた場合、その損失は1.07%に大幅に減少する。
また、世界全体で1トンのCO₂が追加的に排出されると、高排出量シナリオでは36.6ドル、中排出量シナリオでは17.1ドルの被害が発生するという試算もある(Charlton et al.2020)。先進国である米国の例だが、地球温暖化が1℃進むごとに、温暖化被害として米国の国内総生産(GDP)が1.2%減少するという研究もある(Hsiang et al.2017)。
最新のIPCC第6次評価報告書は、産業革命以降の気温上昇を1.5℃以内に抑える排出経路を追求しても、再エネと省エネが主体となる温暖化対策によって、世界で経済成長が停滞することはないというメッセージを出している。
具体的に言うと、世界全体のGDPが2050年にかけて2倍(200%)になるところ、1.5℃経路の実現のための緩和策の実施により、それは3~4%程度低減するとしている。これは毎年だと0.01%に過ぎない。さらに、温暖化による被害の費用を考慮すると、GDPの低減率はマイナスになる。すなわち温暖化対策実施による便益の方が大きくなる。
その背景にあるのが、太陽光、風力発電、バッテリーなどの単価が継続的に低下し、導入も大幅に加速しているという事実だ。例えば、太陽光発電のコストは、2010年からの10年間で85%低下した。再エネや省エネの導入による温暖化対策のコストは、10年前に比べて極めて小さくなっている。そのため、国際エネルギー機関(IEA)は、2022年からの6年間で導入される電力設備量の95%は再エネ(半分は太陽光)と予測する。
再エネと省エネによる温暖化対策を実施したくない、あるいはさせたくない人々は、このような事実を無視して、10年前と同じことを言っている。すなわち、再エネのコストが大幅に低下し、世界では導入量が飛躍的に伸びていることを意図的に無視している。
化石燃料を廃止すれば、大気汚染(主に微小粒子状物質PM2.5による被害)とその健康への悪影響も軽減される。これも米国の例だが、米下院の気候危機特別委員会は、2050年までに炭素排出量を正味ゼロにすることで、2050年時点で毎年6万2000人のPM2.5による早期死亡が避けられ、金額にして5770億ドルの健康被害が回避されると試算している。
医学雑誌LANCETがまとめた大気汚染被害の報告書では、日本の石炭火力発電所による死亡者は100万人あたり9.74人となっている。したがって、日本全体の石炭火力発電所による死亡者は、人口規模から年間約1200人と推算される。IPCC第6次評価報告書は、健康被害が回避されるだけでも温暖化対策の費用は相殺される、すなわち便益が費用を上回るとしている。
池田氏は「気温を1.5℃下げるために何百兆円もかけることは、よい子のみなさんの負担を増やす」と言う。「何百兆円」の詳細は全く不明だが、私たちは年間約20兆円の化石燃料を海外から輸入している(2022年は35兆円を超えると予想されている)。池田氏の言うことを聞いて、温暖化対策を実施しないのであれば、2050年までの約30年間に約600兆円を、中東やロシアなどの化石燃料輸出国や化石燃料会社に支払うことになる。
温暖化対策やエネルギー転換をしなくてもエネルギー・コストは発生し、そのエネルギー・コストとして日本は2050年までに、まさに「何百兆円」を他国や外国企業に貢ぐことになる。一方、温暖化対策やエネルギー転換をすれば、同程度のエネルギー・コストであるものの、海外に流出していた「何百兆円」は国内に投資され、雇用を生み、日本企業の国際競争力を高めることになる。
もちろん、温暖化の被害も回避され、エネルギー安全保障は確立される。ロシアが戦争を続けるための戦費を供給しなくてすみ、化石燃料をめぐる戦争に巻き込まれることもなくなる。人間としてどちらが賢いやり方かは一目瞭然ではないだろうか。
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