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たかが環境の目標では済まない。国連のターゲットは達成されない墓標の山

たとえ「ポスト愛知目標」に合意できても、肝心なのは達成までの道筋

香坂 玲 東京大学大学院教授(農学生命科学研究科)、日本学術会議連携会員(環境学)

 国連で決まった目標というと、皆さんがまず思い浮かべるのは、2015年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標、Sustainable Development Goals)ではないだろうか。2030年に向けた17の目標には、「海の豊かさを守ろう」や「陸の豊かさも守ろう」のように生物多様性に関連が深いものを含め、社会、経済、環境、ジェンダー、都市など幅広い分野のターゲットが含まれている。

愛知目標が決まり、抱き合って喜ぶ人たち=2010年10月、名古屋市熱田区拡大愛知目標が決まり、抱き合って喜ぶ人たち=2010年10月、名古屋市熱田区
 SDGsは関連する国際目標と連動している。生物多様性の場合であれば、生物多様性条約の愛知目標とひもづいている。SDGsの達成目標年は2030年がメインだが、2020年を期限とした愛知目標と軌を一にした生態系の保全の目標なども存在していることから、なかには既に目標の達成の有無の決着がついているもの、いわば成績が出ているものもある。

 愛知目標は、20の領域から成り、それぞれが複数の小項目の指標を含む。2020年に条約事務局が公表した地球規模生物多様性概況第5版では、進展があった領域はあるものの、世界全体で20の個別目標において指標の全てを完全に達成できたものは一つもなく、「進捗(しんちょく)はあったが完全な達成はない」という辛めの判定となった。

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 愛知目標の前身で、2002年に合意され、2010年までに生物多様性の損失速度を著しく減少させるという「2010年目標」も未達で「落第」だった。このため2010年に設定された愛知目標はいわば「追試」であった。「達成ができなかった」「未達だ」が連発される事態となっている。これは、危機感を促したり、現実を知るきっかけになったりという効用はあるかもしれない。そうだとしても、なぜ「未達」に終わったのかを検証する必要はあるだろう。

 筆者は2010年の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で、現地の支援実行委員会のアドバイザーとして活動し、その後は専門家として、生物多様性条約の指標に関わる専門家会合にも参画した。IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)、OECD(経済協力開発機構)、ISO(国際標準化機構)でも、関連するプロセスで、その指標や定義に関わる議論に参画をしている。だが、目標、ターゲットの一言一句に膨大な労力と時間を割くのに比べ、「なぜ達成できなかったのか」という検証や反省は、行政、メディアなどから聞かれることは少ない。

 もともと国連の設定するターゲットや目標は、達成されることが少ないという、不名誉な評判がある。SDGsの前身ともいわれるミレニアム開発目標も多くの分野で、その目標は未達となった。だが、SDGsを議論する際に、その検証が話題となることは多くなかった。

 生物多様性や気候変動など環境分野の目標は、人類の存続にかかわる。にもかかわらず、「目標をたてたはいいが、そもそも達成に向けて進んでいるかどうかを測っていく仕組みがない」という深刻な事態が起きているということだ。長い時間をかけて全員で合意したのに、どちらに向かっているのかが分からない、ということにもなりかねない。

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筆者

香坂 玲

香坂 玲(こうさか・りょう) 東京大学大学院教授(農学生命科学研究科)、日本学術会議連携会員(環境学)

東京大学農学部卒業。ドイツ・フライブルグ大学の環境森林学部で博士号取得。国連 環境計画生物多様性条約事務局(農業・森林担当) に勤務。帰国後、2010年の生物多様性条約COP10に携わり、金沢大、東北大、名古屋大教授などを経て現職。 著書に「地域再生」「生物多様性と私たち」「有機農業で変わる食と暮らし」(岩波書店) 編著書に 農林漁業の産地ブランド戦略―地理的表示を活用した地域再生 など

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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