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ヤングケアラーの苦闘と結びつくために

メタバース空間で模索した「課題解決の場」

北原秀治 東京女子医科大学特任准教授(先端工学外科学)

 ヤングケアラーの厳しい現実に関心が寄せられている。ヤングケアラーとは、病気や障害がある家族のために、家事や介護を日常的に行っている若者のことだ。本来は大人が担うと想定されている仕事を引き受けることで、教育を受ける権利や同世代の友人だちと交流する時間を奪われてしまう。

北海道帯広市のデイサービス事業所「ツクイ帯広WOW」がリアル開催の会場となった
 少子高齢社会において多世代同居世帯は減少しており、家族に介護が必要な場合、その負担を子が背負いがちになる。成長過程において、「遊びに行く」「習い事をする」といったことを通じて仲間との関わりをもつことや、家庭の中でも親から勉強を教えてもらうなどの教育の機会を得ることは重要だが、介護を担う子たちは同世代の子たちと異なる経験をもってしまうことになる。また、行政や周囲から本来なら必要なサポートが受けられるにも関わらず、家庭の中だけの問題になってしまい、その必要性に本人が気づかない場合もある。

 このたび、こうした課題をみんなで話し合って抽出していくワークショップ「ソーシャルバザール」を開催した。会場になった帯広市がある北海道では、「北海道ケアラー支援条例」が存在するが、地域で支えあうための議論はまだ始まったばかりである。今回は市内に拠点を置く疾患経験者主体のNPO法人「みんなのポラリス」が主催となり、ヤングケアラーという言葉をキーワードに、「地方都市の医療と福祉の課題」についてメタバース空間で話し合った。地域の力を引き出すようなアイデアを産み出そうと、米沢則寿帯広市長も参加した。

メタバースでつくる新たな課題解決の場

 帯広市は人口17万人の地方都市である。医療と福祉における全国共通の問題だけでなく、地域性の強い問題なども抱えている。特に冬は大雪によって集まるのが困難になるし、このコロナ禍においては対面によるピアサポートなども滞っている。地方都市の医療と福祉の課題を抽出し、地域の力を引き出すようなアイデアを産む場を創出していきたいという思いから、本イベントは企画された。

メタバース空間からはリアル会場の様子がスクリーンに映し出される
 みんなのポラリスの水口迅代表と理事の菊地ルツ・帯広市議は、筆者とともに「ピアサポートをDX化する研究」に参画している。今回はメタバース空間に設置されたスクリーンに、リアル会場が映る現実世界とメタバースが交差する仕組みをとった。在宅介護などを行う株式会社ツクイで道南・札幌エリア長を務める管原致美氏と事業管理者の阿部美穂子氏も本イベントの趣旨に共感してくれて、参加者がリラックスできるリアル会場を提供してくれた。

 開会挨拶はリアル会場で行われ、その後は参加者がそれぞれのメタバース空間へと移動していった。ヤングケアラーの問題については、メタバース空間上で4人のゲストスピーカーが講演した。筆者や帯広市長はリアル空間に集まった上で、メタバース空間での講義を市長した。札幌や東京からもメタバース空間に聴講者が入り、操作が難しい人にはYouTubeで配信した。

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