北原秀治(きたはら・しゅうじ) 東京女子医科大学特任准教授(先端工学外科学)
東京女子医科大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。ハーバード大学博士研究員を経て現職。専門は基礎医学(人体解剖学、腫瘍病理学)、医療経済学、医療・介護のデジタル化。日本政策学校、ハーバード松下村塾で政治を学び、「政治と科学こそ融合すべき」を信念に活動中。早稲田大学大学院経済学研究科在学中。日本科学振興協会(JAAS)代表理事。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
メタバース空間で模索した「課題解決の場」
ヤングケアラーの厳しい現実に関心が寄せられている。ヤングケアラーとは、病気や障害がある家族のために、家事や介護を日常的に行っている若者のことだ。本来は大人が担うと想定されている仕事を引き受けることで、教育を受ける権利や同世代の友人だちと交流する時間を奪われてしまう。
少子高齢社会において多世代同居世帯は減少しており、家族に介護が必要な場合、その負担を子が背負いがちになる。成長過程において、「遊びに行く」「習い事をする」といったことを通じて仲間との関わりをもつことや、家庭の中でも親から勉強を教えてもらうなどの教育の機会を得ることは重要だが、介護を担う子たちは同世代の子たちと異なる経験をもってしまうことになる。また、行政や周囲から本来なら必要なサポートが受けられるにも関わらず、家庭の中だけの問題になってしまい、その必要性に本人が気づかない場合もある。
このたび、こうした課題をみんなで話し合って抽出していくワークショップ「ソーシャルバザール」を開催した。会場になった帯広市がある北海道では、「北海道ケアラー支援条例」が存在するが、地域で支えあうための議論はまだ始まったばかりである。今回は市内に拠点を置く疾患経験者主体のNPO法人「みんなのポラリス」が主催となり、ヤングケアラーという言葉をキーワードに、「地方都市の医療と福祉の課題」についてメタバース空間で話し合った。地域の力を引き出すようなアイデアを産み出そうと、米沢則寿帯広市長も参加した。
帯広市は人口17万人の地方都市である。医療と福祉における全国共通の問題だけでなく、地域性の強い問題なども抱えている。特に冬は大雪によって集まるのが困難になるし、このコロナ禍においては対面によるピアサポートなども滞っている。地方都市の医療と福祉の課題を抽出し、地域の力を引き出すようなアイデアを産む場を創出していきたいという思いから、本イベントは企画された。
みんなのポラリスの水口迅代表と理事の菊地ルツ・帯広市議は、筆者とともに「ピアサポートをDX化する研究」に参画している。今回はメタバース空間に設置されたスクリーンに、リアル会場が映る現実世界とメタバースが交差する仕組みをとった。在宅介護などを行う株式会社ツクイで道南・札幌エリア長を務める管原致美氏と事業管理者の阿部美穂子氏も本イベントの趣旨に共感してくれて、参加者がリラックスできるリアル会場を提供してくれた。
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