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アルツハイマー病研究で、またデータ捏造疑惑

アミロイド仮説をめぐるスキャンダル

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 いきなり個人的な話になるが、この夏のある日、筆者らも参加している共同研究プロジェクトの中を、パニック気味のメールが飛び交った。「サイエンス誌最新号に、『アルツハイマー病関連研究で、またデータ捏造』の記事が」「私たちのプロジェクトは大丈夫なのか?」「私たちが被験者分類に使ったアミロイドベータ(Aβ)とは、少し種類がちがうようだが?」等々。

 問題の記事には、なかなかヒネリの効いたタイトルがついている(Science,377,6604; doi:10.1126/science.ade0209)。「研究分野そのもののブロット検査(”Blots on a field”)」と。ここでブロットといっているのはウェスタンブロット法のことで、生物学の標準技術だ。電気泳動によって分離したタンパク質を膜に転写し、特定のタンパク質を抗体で検出する。

「アミロイド仮説」をめぐる疑惑

 今回問題になったのは、アルツハイマー病の病因とされるアミロイドベータ(Aβ)というタンパク質の検出に関わるデータだ。告発者はバンダービルド大学の神経科学者・医師のM.シュラグ(Matthew Schrag)。かねてから抗Aβ 薬の効果に疑義を呈し、数十の論文の中から、人工的に修正されたり重複したりしているイメージデータを同定。また効果の疑わしい薬を製薬会社がFDA(米国食品医薬品局)に申請し、それが承認されたことも批判していた。

ワシントン郊外にある米国立保健研究所(NIH)=米メリーランド州、shutterstockワシントン郊外にある米国立保健研究所(NIH)=米メリーランド州、shutterstock
巨額の研究予算を投じてきたNIH(米国国立衛生研究所)も疑惑に反応し、多くの資金を調査に注ぎ込んでいる。

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