山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員
スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
それでも膨大な利益を生む、北半球最大のスウェーデン・キルナ鉄山
鉱山の拡大(坑道の地下1000mへの伸深)で、市街地の移転が必要だろうという噂(うわさ)が広まったのが2001年で、2004年には移転が正式に発表された。そして、今後もさらに10年余、少なくとも2035年までは世界最大規模の「移転」が続くのである。
この機会に、街移転の背景と経過を紹介したい。
だが、前者の復興系の場合、私有地の買収などの困難さから、建設は虫食い状になって、広い更地から街をつくるような総合的な都市計画が実践しにくい。後者の場合だと、それらは、キルナの市街地移転のように、古い街の取り壊しを(歴史的建造物だけは丸ごと移動させるが)同時におこなうものではない。村レベルの類例はあるかも知れないが、ここまで本格的な規模の「街まるごと移動」は、スウェーデン史上ではもちろんのこと、世界でも類例がほとんどないのではないだろうか。予算規模だけなら史上最大かもしれない。
ちなみに、キルナの南隣(といっても100km以上離れているが)のエリバレ市でも、鉱山のある場所にあるマルムベリー(直訳すると「鉄鉱石の山」)地区で市街地が拡大する鉱山にのみ込まれつつある。ただし、エリバレの市街地自体は影響はないので、キルナのような丸ごと移転になってならずエリバレ市街が拡張する形で移転が進んでいる。鉱山がらみの街移転と言えば、普通はこちらなのだ。
それほどに希有(けう)な例だから、キルナ市の街移転は、現時点で都市計画理論の実験場となっている。そればかりか、徐々に取り壊しが進んでいる旧市街もまた、都市計画に基づいて120年前に荒れ地にポツンとつくられた街だ(その点は札幌やつくばと同じ)。
今回はそれにバリアフリーや車の締め出しなど、多くの現代要素を入れている。その中には有線電話線の完全廃止(今年5月)もあり、キルナ市は市役所に至るまで無線電話方式となった。私も有線の電話器の廃棄を余儀なくされた。
当然ながら、計画段階でかなりの時間をかけている。実は、2年がかりで引いた図面(2年かけたのは120年前と同様)を廃棄して、第2案をゼロから作ったほどだ。その作図にも2年もかけて、最新の都市計画理論を反映させた。
そこまで金と時間をかけてでも実行する価値が、キルナ鉄山にはある