細田満和子(ほそだ・みわこ) 星槎大学大学院教授
東京大学大学院人文社会系研究科で博士(社会学)を取得し、2004年からコロンビア大学、ハーバード大学で社会学、公衆衛生学、生命倫理学の研究に従事。2012年に帰国し星槎大学に着任。主著書は『パブリックヘルス』、『グローカル共生社会へのヒント』など。世界社会学会医療部会会長。アジア太平洋社会学会会長。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
他者との交わりがある中でこそ、人は健康な状態に
現代日本において孤独・孤立は特に深刻な問題である。その背景には、都市化による地域紐帯(ちゅうたい)の希薄化、核家族化、少子高齢化、単身世帯や単身高齢者世帯の増加、従来の終身雇用から非正規雇用の増加といった日本型雇用慣行の変化など、様々な社会的背景がある。特に2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大予防による外出自粛要請によって、孤独や孤立はさらに深刻化した。孤独・孤立の「治療法」として、イギリスでは「社会的処方」が数年前から制度化され、日本でも取り入れようという動きが始まっている。イギリスの取り組みを紹介しつつ、日本での導入について考えたい。
孤独や孤立は、人生のあらゆる場面で誰にでも起こりうるものである。2005年の経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、「家族以外の人」との交流がない人の割合で、日本は米国の5倍、英国の3倍高いとされている。また、内閣府の60歳以上を対象にした2015年の調査では、「家族以外に相談あるいは世話をし合う親しい友人が誰もいない」と回答した人が25.9%と、4人に1人以上という結果が出ている。
一般に、孤独は主観的概念で「ひとりぼっちと感じる精神的な状態」で、孤立は客観的概念で「社会とのつながりのない/少ない状態」といわれている。孤独や孤立が、人々の健康と寿命に悪影響を与える可能性があることは、数多くの研究ですでに立証されている。
特に高齢者や病人、障害のある人は物理的にも外に出ていくことが難しい場合が多い上に、心理的にも閉じこもりがちになる。重度の場合はさらに社会参加の機会が制限され、家族も含めて社会から孤立しがちである。高齢者や病人、障害のある人たちに社会参加の意欲があったとしても、家族や周りの者が「病人」などの「役割」を当てはめてしまうこともあり、より孤独を感じてしまう。
高齢者や病人・障害のある本人を支援する医療や福祉の制度があったとしても、退院すると制度が使えなくなったり、そもそも申請しないと制度が利用できなかったりすることも多い。そもそもニーズに対する制度がないこともあって、高齢者や病人、障害のある人、あるいはその家族に届かない。
こうした孤独・孤立の問題は世界規模であり、各国が真剣に取り組んでいこうとしているが、どのような介入が孤独を軽減できるかについてはまだ研究の途上である。そのような中で、比較的成功していると考えられているイギリスの「社会的処方」を、ここで紹介してみたい。