他者との交わりがある中でこそ、人は健康な状態に
2022年11月19日
孤独や孤立は、人生のあらゆる場面で誰にでも起こりうるものである。2005年の経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、「家族以外の人」との交流がない人の割合で、日本は米国の5倍、英国の3倍高いとされている。また、内閣府の60歳以上を対象にした2015年の調査では、「家族以外に相談あるいは世話をし合う親しい友人が誰もいない」と回答した人が25.9%と、4人に1人以上という結果が出ている。
一般に、孤独は主観的概念で「ひとりぼっちと感じる精神的な状態」で、孤立は客観的概念で「社会とのつながりのない/少ない状態」といわれている。孤独や孤立が、人々の健康と寿命に悪影響を与える可能性があることは、数多くの研究ですでに立証されている。
高齢者や病人・障害のある本人を支援する医療や福祉の制度があったとしても、退院すると制度が使えなくなったり、そもそも申請しないと制度が利用できなかったりすることも多い。そもそもニーズに対する制度がないこともあって、高齢者や病人、障害のある人、あるいはその家族に届かない。
こうした孤独・孤立の問題は世界規模であり、各国が真剣に取り組んでいこうとしているが、どのような介入が孤独を軽減できるかについてはまだ研究の途上である。そのような中で、比較的成功していると考えられているイギリスの「社会的処方」を、ここで紹介してみたい。
イギリスでは、2014年の調査で、65歳以上の4割に当たる約390万人が「テレビが一番の友だち」と答えたという。また英国赤十字などの16年の調査によると、成人の2割に相当する900万人以上が恒常的に孤独を感じているという。
ロンドン大経済政治学院(LSE)が2017年発表した研究によれば、孤独がもたらす医療コストは、10年間で1人当たり推計6000ポンド(約100万円)であるという。また別の調査では、孤独が原因の体調不良による欠勤や生産性の低下などで雇用主は年25億ポンド(約4150億円)の損失を受けるという推計があった。
孤独の弊害に危機感を募らせたイギリスは、孤独について国を挙げて取り組むべき社会問題であると認識。2018年に当時首相であったメイ氏は世界で初めて「孤独担当大臣」を任命した。政府は孤独対策のために2000万ポンド(約33億2000万円)を計上すると発表した。そして孤独を解消する方法として「社会的処方(Social Prescription)」を適用し、2023年までに全国の総合医GP(General Practitioner)が「社会的処方」をできるようにするという方針を決めた。
社会的処方について詳述する前に、イギリスの医療体制について簡単に説明しておこう。イギリスでは、国民保健サービス(NHS:National Health Service)の下で、税を拠出金とした公的医療が窓口負担なく無料で受けられるようになっている。住民は、心身の不調があると、まずは総合医であるGPに行き、必要があれば専門医を紹介されるというシステムになっている。
GPはかかりつけ医として登録している地域住民の初期診療のほか、健康に関する相談にのり、普段からの健康管理を行っている。ちなみにGPの報酬は基本的に登録をした住民1人当たりで国から支払われ、その額は診療内容によって変わるわけではない。
近年、孤独に悩んで医師に話を聞いて欲しいとGPを受診するケースも多く、GPの診察の2割は医療が必要なのではなく、孤独に悩む人という報告もある。他にも金銭的な心配、住宅問題など、不安や気がかりを抱えた人々がGPを受診する。このような患者が抱える医学的ではない問題を解消するために導入されたのが、「社会的処方」である。
社会的処方は、
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