細田満和子(ほそだ・みわこ) 星槎大学大学院教授
東京大学大学院人文社会系研究科で博士(社会学)を取得し、2004年からコロンビア大学、ハーバード大学で社会学、公衆衛生学、生命倫理学の研究に従事。2012年に帰国し星槎大学に着任。主著書は『パブリックヘルス』、『グローカル共生社会へのヒント』など。世界社会学会医療部会会長。アジア太平洋社会学会会長。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
他者との交わりがある中でこそ、人は健康な状態に
イギリスでは、2014年の調査で、65歳以上の4割に当たる約390万人が「テレビが一番の友だち」と答えたという。また英国赤十字などの16年の調査によると、成人の2割に相当する900万人以上が恒常的に孤独を感じているという。
ロンドン大経済政治学院(LSE)が2017年発表した研究によれば、孤独がもたらす医療コストは、10年間で1人当たり推計6000ポンド(約100万円)であるという。また別の調査では、孤独が原因の体調不良による欠勤や生産性の低下などで雇用主は年25億ポンド(約4150億円)の損失を受けるという推計があった。
孤独の弊害に危機感を募らせたイギリスは、孤独について国を挙げて取り組むべき社会問題であると認識。2018年に当時首相であったメイ氏は世界で初めて「孤独担当大臣」を任命した。政府は孤独対策のために2000万ポンド(約33億2000万円)を計上すると発表した。そして孤独を解消する方法として「社会的処方(Social Prescription)」を適用し、2023年までに全国の総合医GP(General Practitioner)が「社会的処方」をできるようにするという方針を決めた。
社会的処方について詳述する前に、イギリスの医療体制について簡単に説明しておこう。イギリスでは、国民保健サービス(NHS:National Health Service)の下で、税を拠出金とした公的医療が窓口負担なく無料で受けられるようになっている。住民は、心身の不調があると、まずは総合医であるGPに行き、必要があれば専門医を紹介されるというシステムになっている。
GPはかかりつけ医として登録している地域住民の初期診療のほか、健康に関する相談にのり、普段からの健康管理を行っている。ちなみにGPの報酬は基本的に登録をした住民1人当たりで国から支払われ、その額は診療内容によって変わるわけではない。
近年、孤独に悩んで医師に話を聞いて欲しいとGPを受診するケースも多く、GPの診察の2割は医療が必要なのではなく、孤独に悩む人という報告もある。他にも金銭的な心配、住宅問題など、不安や気がかりを抱えた人々がGPを受診する。このような患者が抱える医学的ではない問題を解消するために導入されたのが、「社会的処方」である。
社会的処方は、