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移植医療を取り巻く心理社会的問題と腎移植成功後の“逆説的うつ”

求められるコンサルテーション・リエゾン精神医学

高橋公太 新潟大学名誉教授、日本サイコネフロロジー学会元理事長

拡大=shutterstock.com
 腎移植は免疫抑制療法の進歩により、その成績が飛躍的に向上している。結果、末期腎不全の一般的な治療となっている。しかし、ときに腎移植後に腎機能が良好にもかかわらず、レシピエント(臓器移植を受ける患者)が一時期、「うつ」になることを経験する。そして、「うつ」は治療成績に影響を及ぼす場合がある。

 今回は、移植医療を取り巻く心理社会的問題をとりあげ、レシピエントの「うつ」について警鐘を鳴らしたい。併せてその解決策を見いだし、今後の移植医療における質の向上につなげたい(1-3)。

日本の臓器移植法のあゆみ

 本題に入る前にドナー(臓器提供者)とレシピエントの心理社会的かかわりにおいて倫理的問題などが密接に関係するので、「臓器移植法」と「移植と倫理」について触れたい。

 わが国の臓器移植法について振り返ってみると,1958年「角膜移植に関する法律」が,1979年には腎移植にも適用が拡大され「角膜及び腎臓の移植に関する法律」が公布された。この法律では,心臓死下では,家族の同意がえられれば角膜と腎臓は摘出できる。現在でも,心臓死下の臓器提供に関してこの骨子は変わらない。

 一方心移植,肝移植などは,脳死下に臓器を摘出し移植しなければ臓器は機能しない。これらの臓器移植の道を開く目的のために1997年10月16日,「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)が施行された。

 しかし、この法律の運用に当たっては脳死臓器移植にとって極めて厳しい基準の法律であった。さらにこの法律では15歳未満の小児から脳死下での臓器の提供ができなかったため、わが国では小児の心移植が実施できず、渡航移植に頼っていたのが現実であった。

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 また、臓器移植法は、施行後3年をメドに改正することがうたわれていたが、12年も先送りにされ、2009年7月17日にやっと改正されるに至った。この間、大変規制の厳しい法律であったため、わずか87例のドナーの脳死判定が実施され、そのうち86例から臓器を提供されたのみであった。

 2010年7月に改正臓器移植法が施行されてから、脳死下の臓器提供が以前より多少増加した背景の要因として、法律の改正により、本人の臓器提供の意思が不明な場合、家族の忖度(そんたく)に任すことが認められた点にある。しかし、予想に反して臓器提供数は伸びていない。提供の実数から見ると、今まで心臓死下で提供していたドナーが脳死下に移行したに過ぎない。ちなみに2021年の臓器提供数は78例(脳死下66例、心臓死下12例)である。

 最近の臓器提供数をみると、人口100万人あたり、米国では38.03人(年間約1万人)、隣国の韓国では、9,22人、それに比べてわが国ではわずか0.62人と極端に少ない。

 さらにコロナ渦では医療が切迫し、救急病院もコロナ患者の対応に追われ、ますます臓器提供の環境は厳しい状況になっている。したがって、今後も国家レベルで地道な臓器提供推進活動が求められている。

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筆者

高橋公太

高橋公太(たかはし・こうた) 新潟大学名誉教授、日本サイコネフロロジー学会元理事長

1948年生。新潟大医学部卒後、東京女子医科大学を経て1995年、新潟大学医学部泌尿器科教授。2010年、新潟大学医歯学総合病院総括副院長。日本臨床腎移学会理事長、日本サイコネフロロジー研究会会長などを歴任。ABO血液型不適合腎移植を日本で初めて成功。2012年度日本医師会医学賞、2022年度日本サイコネフロロジー学会春木記念賞などを受賞した。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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