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重複障害の見えにくい困難~1+1=2ではない

22q11.2欠失症候群を通して考える

笠井清登 東京大学医学部附属病院精神神経科教授

 「知的障害もボーダーライン、身体障害もボーダーラインで、(普通)中学校でも、特別支援学校でも、ウチではないと言われた。高校で精神的不調となり、精神科にいったら、心臓疾患があるので、ウチでは診られないと言われた。感染症にかかり、近隣の内科病院に入院しようとしたら、精神科もある総合病院に行ってくれと断られた。20歳になり、障害者手帳を申請しようとしたら、どの科のかかりつけ医師からも、障害が軽いので認定されないかもと言われた。

拡大=shutterstock.com
 これは、22q11.2(ニジューニキューイチイチテンニ)欠失症候群(ケッシツショウコウグン)の患者さんのご家族からよく語られるストーリーである。国は憲法で基本的人権を多数の条にわたって定めているが、一つひとつはボーダーラインの障害でも、複数併せて存在する(重複障害)場合に、既存の社会構造(一つひとつの障害に対しては受け入れるようつくられている)のいずれからも包摂(ほうせつ)されない、ということが起こる。しかし対応したそれぞれの社会構造側は、憲法違反を問えるほどの不合理な対応とは言えない。これを「憲法違反だ!」と名指せば、「これ以上どうすればいいんだ!」と担当者は居直るかもしれない。

 22q11.2欠失症候群を通し見えにくい障害について考え、障害の重複による困難は1+1=2ではないことを伝えたい。

22q11.2欠失症候群 日本に2万~6万人

拡大22 Heart Club オリジナルパンフレット
=22 Heart Club
 22q11.2欠失症候群は、ヒトに23対46本ある染色体の22対目の片方の一部(長腕11.2領域)が欠失することによる染色体起因性症候群であり、国の難病にも指定されている。22q11.2欠失症候群の有病率は2000-6000人に1人とされ、医療従事者でもこの症候群を知っている人は多くない。しかし、未診断の方も含むとは思われるが、日本人の2万ー6万人にこの症候群があると考えると、希少疾患だから自分には関係ない、こういった方々のニーズに社会が十分対応できなくても仕方がない、と目を背けてしまってよいだろうか。

 実際、先天性心疾患の原因となる染色体起因性症候群としては、ダウン症に次いで多い。22q11.2欠失症候群の約9割は、両親が欠失を持たないde novo変異(新規突然変異)である。つまり、22q11.2欠失症候群の子どもの両親は、染色体に異常を持っていないことのほうが大多数である。

 起こり得る合併症は多く、先天性心疾患のほかに、胸腺低形成・口蓋裂(こうがいれつ)・低カルシウム血症などを併存する。出生直後から幼少期にかけて、先天性心疾患や口蓋裂などに対する手術を要することが多い。こうした身体疾患・障害に加えて、知的障害や発達障害を併存することが多く、加えて、不安や恐怖を感じやすい心の特徴や、思春期以降に統合失調症様の症状を発症することもある。

 このように、22q11.2欠失症候群のある人は重複障害を呈することが多いが、症状の組み合わせや重症度は個人差が非常に大きい。一つひとつの疾患・障害については頻回の通院が不要のレベルであっても、それらが重複することによって、日常・社会生活上の困難が起きやすい。染色体の一部分の欠失という病因によって規定されている疾患であるが、それをもつ各人の症状は多様性に富んでおり、そのため社会の中で体験する困難もまた多様であるという点が大きな特徴である(『22q11.2欠失症候群のある人とその家族の統合的支援のためのガイダンス』

拡大図1)多疾患併存難病・22q11欠失症候群の移行期における既存支援構造とのアンマッチ


筆者

笠井清登

笠井清登(かさい・きよと) 東京大学医学部附属病院精神神経科教授

1995年東京大学医学部卒、2008年東京大学医学部附属病院精神神経科教授。2021年より東京大学・医学のダイバーシティ教育研究センター長併任。社会活動として、22ハートクラブアドバイザー、日本統合失調症学会事務局、NPO法人女性心理臨床ラボ事務局。編著に「人生行動科学としての思春期学」(東京大学出版会、2020)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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