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DXで育てる未来の作業療法士

当事者参画の新デジタル教育をメタバースが支える

北原秀治 東京女子医科大学特任准教授(先端工学外科学)

 障がい当事者と共に、未来の作業療法士・理学療法士を育てる「WithUs:ウィズアス」プロジェクトが、2022年4月に、筆者が代表を務める「ピアサポートをDX化する研究」に、新たに「教育」を加え、福岡医健・スポーツ専門学校(以下、福岡医健)、そして障がい当事者団体であるNPO法人学びあいを中心に始動しました。本プロジェクトは、福岡医健の教員、作業療法学科2年生の協力を得て、作業療法教育x障がい当事者のピアサポートxデジタルトランスフォーメーション(DX)として、未来の作業療法士の学生に、障がい者同士の気持ちにも触れ合ってもらいつつ、同時にデジタル技術についても学ぶというものだ。

福岡医健・スポーツ専門学校の協力で始まった「WithUs」プロジェクト=福岡市博多区石城町
 社会が求めているもの、当事者が求めているものを学び、作業療法士・理学療法士ができることを増やす、つまり、障がい当事者を取り巻くすべての人々、技術を巻き込みながら、広義のピアサポートという意味で、みなで一緒に学ぶという意味の「WithUs:ウィズアス」と命名した。プレ講義を含め全7回のトライアルカリキュラムには、東京から、そして時には海外から、また、障がい者のメンバーは福岡・大分・長崎から協働で、リアルやネットで講義に参加した。

 また、社会課題解決のために新技術開発を模索する企業も参画し、まさに産学官民連携で、未来の教育がおこなわれた。それは、「講義」であると同時に「ピアサポート」であると同時に「新しい技術開発」でもあった。

メタバースで行う片手料理教室「下町キッチン」

 「メタバース×障がい当事者」の長所短所をあえてミックスすることで、“問題”が好転、することがある。たとえば、当事者の苦手なパソコン操作をICTが得意な学生が補う、ベールに包まれた障がい者の生活から生の声を通して学生に伝える貴重な機会になる、このコロナ禍で教育方法が大きく変化した学校の機材・空間・人材を活用する……。こうした掛け合わせが、未来の人材を大きく育てていく。

片手での料理を教える伊藤恵理子さん(左)と葉山靖明氏=福岡市博多区石城町
 そのような取り組みとして、まずは障がい当事者がメタバースで料理教室を行う姿を学生に実際に体験してもらった。学生がサポートとして、そして遠隔地の障がい当事者3名(大分県2名、長崎県1名)がピアサポートとして参加した。

 講師は片麻痺当事者である伊藤恵理子氏がつとめ、「 OneHandの野菜の下ごしらえから」という名目で指導した。美味しいものを食べることが好きな伊藤講師は、さまざまな創作料理を生みだしている。美味しい料理があると自然にOnehandで創ってみたくなるので、この下町キッチンを生かして、たくさんの当事者の方々に笑顔になっていただきたいと講義(ピアサポート)を担ってくれた。

 麻痺がないほうの片手で野菜の皮を向いて切っていく伊藤氏の姿は、本当に生き生きとしていた。この料理教室がメタバースで配信され、学生もその気持ちを感じるために見ている。こんなことが実現される日が来ることを、誰が想像しただろうか。

アバターロボットで切り開く未来のリハビリ

 次は、メタバースではなく現実世界を重視したアバターロボット「ニューミー」の登場である。アバターロボット「ニューミー」については以前の記事でも紹介した、遠隔から操作することのできるアバターロボットのことである。販売するavatarin株式会社のロゴは、このニューミーを使用し、どこへでも行けるという意味で「どこでもドア」をイメージしてるという。

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