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2022年のノーベル物理学賞は「量子もつれ」と「ベルの不等式の破れ」

始まりは、アインシュタインの疑念だった

谷村省吾 理論物理学者

「量子もつれ」を描いたイラスト=shutterstock.com

期待されていた3人の受賞とわかりにくい業績

 今年のノーベル物理学賞受賞者はジョン・クラウザー(アメリカ)、アラン・アスペ(フランス)、アントン・ツァイリンガー(オーストリア)の3人である。私は2019年の論座でクラウザーとアスペの受賞を予想していた。他にも思い当たる候補者名を挙げていたが、失礼ながらツァイリンガーの名前は挙げていなかった。ただ、今回の受賞者を予想していたのは私だけではない。言ってみれば、この業界の専門家ならみな「この3人は、いつかは、いや、今年こそはノーベル賞をもらうだろう」と期待していた方たちだ。

 クラウザーら3人へのノーベル賞授賞理由は「量子もつれ光子を用いたベルの不等式の破れの検証実験と量子情報科学の先駆的実験」である。物理学賞と言えば、新素粒子の発見やブラックホールの発見など「いかにも新発見」に贈られそうなものだが、今回は、ベルの不等式という数式が間違っている(予想された数式が現実世界では成り立っていない)ことを実証したという、聞きようによってはネガティブな功績に対する授賞である。しかし、その意味を理解すると、これは大変な発見なのである。

我々の素朴な物理観:局所実在論

 我々の素朴なものの見方は「局所実在論(local realism)」という言葉にまとめられる。「局所性」とは、

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