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「損失と被害」をめぐる深くて、考えさせる話

改めて国連気候変動会議(COP27)の意味を考える㊥

明日香壽川 東北大学東北アジア研究センター/環境科学研究科教授

 実は、米国政府関係者にとって「責任や補償」、そしてそれらに必然的に結びつく「賠償(reparation)」という言葉は特別な意味を持つ。なぜなら、現在、米国国内において、奴隷として虐待された黒人や土地を奪われた先住民が、政府に対して補償や賠償を求める動きがあるからだ(実際に、米国政府は第2次世界大戦時の日系米国人の強制収容に関して謝罪し賠償している)。したがって、「責任・補償」あるいは「賠償」は米国にとって絶対的なレッドライン(妥協できないもの)であった。そのレッドラインが今回のCOPではついに越えられた。

途上国への資金援助は先進国の義務

 極めて端的に言うと、気候変動交渉の争点は、削減目標と資金援助の二つしかない。途上国は先進国の責任を問い、資金援助を求めてきた。途上国から見れば、先進国は1人当たりの排出量が格段に大きく、歴史的な排出責任も持つのに、高い排出削減目標を自らに課することを拒んできた。

 そればかりか、

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筆者

明日香壽川

明日香壽川(あすか・じゅせん) 東北大学東北アジア研究センター/環境科学研究科教授

1959年生まれ。東京大学工学系大学院(学術博士)、INSEAD(経営学修士)。電力中央研究所経済社会研究所研究員、京都大学経済研究所客員助教授などを経て現職。専門は環境エネルギー政策。著書に『脱「原発・温暖化」の経済学』(中央経済社、2018年)『クライメート・ジャスティス:温暖化と国際交渉の政治・経済・哲学』(日本評論社、2015年)、『地球温暖化:ほぼすべての質問に答えます!』(岩波書店、2009年)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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