桜井国俊(さくらい・くにとし) 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人
1943年生まれ。東京大学卒。工学博士。WHO、JICAなどでながらく途上国の環境問題に取り組む。20年以上にわたって、青年海外協力隊の環境隊員の育成にかかわる。2000年から沖縄暮らし。沖縄大学元学長。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
市民が自ら実施した血液中のPFAS濃度調査でわかったこと
沖縄は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の安保3文書で敵基地攻撃の拠点として位置づけられ、対中戦争の最前線に立たされる可能性が急速に高まってきた。
筆者も呼びかけ人の一人となって2022年1月に「ノーモア沖縄戦、命どぅ宝の会」を立ち上げたが、沖縄戦の再来はもはや杞憂(きゆう)ではない。そうした中ではあるが、日々飲む水の安全も忘れるわけにはいかない。
本稿では、米軍基地や自衛隊基地で使用される泡消火剤が原因となっている飲み水の有機フッ素化合物(PFAS)汚染についての沖縄の市民の取り組みを紹介する。
沖縄でPFAS汚染問題が認識されるようになったのは7年前の2016年1月20日の琉球新報の報道によってであった。
県下7市町村45万県民に給水している北谷浄水場の水源の比謝川(ひじゃがわ)が、PFASの一つであるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)で汚染されていること、嘉手納基地から流れ出る大工廻川(だくじゃくがわ)がPFOSで高濃度に汚染され、それが比謝川に合流していること、汚染原因は限りなく嘉手納基地であると推定されることが、県民の知るところとなった。
2016年6月、北谷浄水場を運転管理する沖縄県企業局が米軍に立ち入り調査を求めたが、日本にはPFOSについて基準がないことを理由に、米軍は立ち入り調査を認めなかった。
その後、厚生労働省は2020年4月にPFOSとペルフルオロオクタン酸(PFOA)の合計で50ng/Lという飲料水暫定基準を設定した。そこで企業局は2020年5月に改めて立ち入り調査を求めたが、米軍は今日に至るまでその要請を無視している。
環境汚染防止の大原則は発生源対策であり、その意味では嘉手納基地などの米軍基地、そして那覇の自衛隊基地などの発生源の調査が不可欠であり、それを阻んでいる日米地位協定の問題が問われてくる。