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成層圏気球 どこまでコントロールできるのか?

スパイ目的かどうかの議論の前に、基本知識を知って欲しい

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

軍事衛星で簡単に見つけられる成層圏気球

 成層圏は浮力が圧倒的に少なく、どんな気球であれ巨大になる。浮力に関してはJAXAの宇宙科学研究所のサイトに分かりやすい説明があるが、今回の気球が目撃された高度19-20kmでは地上の6%程度しかない。

 地上では1立方メートルのヘリウムで1kgの浮力を得られるが、同じ浮力を得るのに高度19-20kmでは15立方メートル以上のヘリウムが必要となる。しかも現実には浮力の半分ほどが気球自体(構造や膜)に使われるから、1kgの浮力を得るには30立方メートル以上(直径4m)の気球が必要だろう。これに気球につるす機器類(ペイロード)が加わるのだ。だから成層圏気球の直径は普通10mを下らない。

 米国防総省の発表によると、全体で高さ60m、ペイロードが50人乗りジェット機の大きさだそうで1トンを超えそうだから、気球本体の直径は30〜35m程度だろうか。これは昼間だと宇宙空間から軍事衛星で簡単に発見できる大きさだ。

拡大標準大気モデル(NRLMSISE-00)による高度別のヘリウムガス の浮力。2月1日深夜を指定

 逆に言えば、米国はおろか日本すらも気球の存在を打ち上げ直後から検知可能だったはずだ。たといリアルタイムで見逃しても、気球の発見後に、それ以前にさかのぼって気球を把握するのは簡単だ。だからこそ、気球が(ロシア発ではなく)中国発だと断言出来たのだろう。中国だって、そこまでは織り込み済みのはずだ。

 報道では米国以外に南米コロンビアでも類似の気球が見つかって、時速45kmほどで移動しているそうだが、これが中国発と分かったのも、軍事衛星で軌跡を確認したからではあるまいか。こちらのほうは船から打ち上げた可能性もあるが、その場合、捕鯨船以上の大きな甲板が必要だから、軍事衛星なら雲を挟んでも簡単に船を同定できよう。

空気薄い成層圏 1週間以上飛ぶのは特別な気球

 空気の薄い成層圏に気球を浮かべるには、気球本体の膜や構造をできるだけ軽くしなければならない。それはちょっとの膨張で膜に圧力がかかると簡単に破裂することを意味している。

 しかし、

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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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