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劣化ウラン弾、英国がウクライナへの提供表明 いさめられない欧米

紛争地への武器提供は「地球」にとっても禁忌

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 戦争が地域の環境を破壊し、さらに各種の国家間協力にも支障をきたすことは論をまたない。とりわけ大国間のパワーバランスに大きな影響を与えるような戦争であれば、地球規模の国家間協力をも寸断する。地球科学や環境問題も例外ではない。なかでも武器提供、とりわけ劣化ウラン弾となれば、地球にも、人道的にも、深刻な環境問題となりかねないことを指摘したい。

戦争による分断 地球規模の影響

 ロシアは北半球極域の3分の1以上の経度に広がり、陸地面積に限れば過半を占める国だ。極域現象に携わる者にとって、ロシアのデータは不可欠だし、観測を維持している研究者とのコンタクトは欠かせない。

 だからこそ、冷戦さなかの国際地球観測年(IGY:1957-1959年)以来、地球科学の分野では「東西」の協力が続いてきた。

磁場の変動からAE指数を算出する北半球極域の12カ所の地点
クレジット:京都大学理学部地磁気世界資料解析センター
 例えば宇宙天気現象(=太陽面爆発が電離層活動の増大などを通して送電線や通信などに悪影響を与える現象で、最悪の場合、人工衛星の故障や変電所の故障などの被害が出ることがある)は、北半球極域の12カ所の磁場の変動から算出されるAE指数を調べることでモニターされるが、この12カ所のうち4カ所がロシア国内にある。幸い、これらのデータは今も途切れることなく更新されている。

 しかし、12カ所に限らず全世界の地磁気データを集めるサイトでは、ロシアのデータが、今回のウクライナ戦争を境に途切れていて、モニターの精度が戦争前より落ちている(途切れた理由がアメリカ側にあるのかロシア側にあるのかは、私には分からない)。ドイツに至っては、国立大学や国の機関の科学者に対し、ロシアの科学者個々人とのメールのやり取りの禁止例を出した。

 地球環境への影響はもっと深刻だ。温暖化対策や宇宙ゴミ対策など「人類全体への脅威」への国際的な対策が困難になる。なにより不発弾や各種酸化物など国土の荒廃は戦後まで大きな爪痕を残す。復興が必要なのは都市だけではない。環境汚染で農業ができなくなった土地を耕作地に戻すのは大変なのだ。今回の戦争だとザポーリジャ原発が事故を起こす可能性も無視できない。

「禁じ手」の武器提供

 もちろん、そんな戦争を仕掛けたロシアは当然糾弾されるべきだ。だが、その一方で、欧米はどうなのか? 「正義」「人道」の名のもとに紛争地への武器提供という「禁じ手」を使ったのは正しかったのか? 紛争地に武器を提供することが長らく禁忌だったのは、それが紛争を激化させ、環境・インフラの破壊と人的被害を増やす「非人道的行為」からだ。

 現に、戦闘も環境破壊もいまだに進行中だ。停戦(終戦ではない)の機運すら遠ざけている。昨年の今頃は1年以内の停戦、運が良ければ終戦すら期待できていたのではないだろうか。しかし、現段階で向こう1年以内に停戦すると予想する人はほとんどおるまい。

 そもそも、紛争地への武器提供という禁忌が破られたのは、ロシアが武器提供を上回る非人道的行為(一方的侵攻)をしたから「だけ」ではない。1年前、私が武器供与による環境破壊の懸念を当時のスウェーデンの政権党に伝えたら、国の安全のための最善策だと信じるという答えが返ってきた。つまり、国際秩序の破壊を前に、ここで止めないと次は自国が侵略されるかもしれないという恐れが、東欧と北欧を始めとする欧州にあったからではないか?

英国旗
劣化ウラン弾
WIKIPEDIA COMMONS

 禁じ手は、短期決戦の思想であって、ずるずるといつまでも使って良いものではない(個人的には短期であっても反対だ)。だが、現実は逆だ。歯止めを失った欧米は、ますます戦争にのめりこんで長期化し、提供する武器は高度化して、環境破壊を早めている。3月には、さらに非人道武器にまでエスカレートした。劣化ウラン弾だ。

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