二つの機能を持つストリゴラクトンはどのように植物を変えたのか?
2023年04月20日
ストライガはトウモロコシやソルガムといった農作物の根から栄養を奪い、時にその収穫を皆無にする。紫色の美しい花を咲かせるのだが、その英語名は「魔女の雑草(witchweed)」。アフリカなどでは農家に恐れられていて、2010年には科学誌サイエンスによって、ムギさび病菌やイネいもち病菌などとともに、世界の食料安全保障に対する生物学的な七大脅威の一つと位置付けられたことさえある。
日本ではあまり知られていないストライガだが、その農業被害について調べだすと、研究や対策に日本も貢献していることがわかってきた。そこで神戸大学や宇都宮大学などで国内の関係者を取材して、2008年5月に朝日新聞紙上に記事を掲載した。
取材を始めてすぐ疑問を覚えたのは、なぜトウモロコシなどが根寄生植物を呼び寄せるSLを、自ら土壌中に放出しているのかということだった。実はその答えはすでに突き止められており、その記事でも紹介した。
植物は多くの場合、土壌中で菌根菌と総称されるカビやキノコの仲間と共生している。菌根菌の中でもアーバスキュラー菌根菌(AM菌)は陸上植物の約8割と共生し、植物で特に不足しがちなリンの吸収を助けてくれる。その見返りとして植物は、光合成産物の糖類や脂質をAM菌に与えている。この共生関係がどのように成り立つのかは長く謎だったが、2005年に大阪府立大学(現、大阪公立大学)の秋山康紀准教授(現、教授)らが、植物は土壌中で働く情報伝達物質(根圏シグナル)としてSLを放出することで、AM菌の菌糸の伸長を促していることを報告していた。
つまりストライガやこれに近縁な根寄生植物は、植物がAM菌と共生する目的で出しているSLを悪用し、自らが寄生の対象とする植物の存在をいち早く察知するために利用していたわけだ。
こうして覚えたSLという名前を、別の取材で聞く機会がまもなく巡ってきた。2008年8月、理化学研究所の山口信次郎チームリーダー(現、京都大学化学研究所教授)らのグループが、植物の枝分かれを抑えている植物ホルモンとしてSLを報告したことを取材したからだ。
植物ホルモンとは、植物の体内において微量で成長をコントロールする物質を指す。枝分かれの多い少ないは、農作物の収量や品質に深く関わるため、農業的な関心も高い性質だ。研究競争は激しかったと見えて、この時も論文がフランスのグループと同時に科学誌ネイチャーへ掲載されるという結果になった。
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