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人工オーロラ実験、半世紀経て「復活」

この10年で実験回数増加 宇宙天気現象など研究の最先端を担う

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 論座執筆の10年余りに地球・太陽系の探査・観測・モニターの意義や、その手段としての探査機や人工衛星の話はかなり書いてきた。また、気球や地上観測の話も書いてきた。しかし、打ち上げロケットの話はまだしていない。たまたま、私の勤め先のスウェーデン国立スペース物理研究所(IRF)が主導して、つい最近、打ち上げロケットによる人工オーロラ実験に成功したので、これを私の論座での最後の話としたい。

人工オーロラ。丸い明かりが放出された中性バリウムで、そこから左上に伸びる紫色の筋がイオン化したバリウム=SSC提供

ロケットの歴史

 打ち上げロケットとは、人工衛星用のロケットとは異なり、落とすことを前提として打ち上げられる観測・研究用ロケットだ。人工衛星を打ち上げることができない時代から、気球では届かない高度40km以上の「超高層」の研究や、自由落下の際の無重力状態を利用した各種の実験がされてきた。同じ技術を使ったミサイルとは対極の存在で、一つの技術が平和と軍事の両極で使われる例の一つでもある。

 近年こそ、人工衛星打ち上げ用ロケットに向けた一里塚として技術開発する色彩が強いが、元々は核保有国がミサイルを開発した副産物で、平和利用から開発を始めた例外は日本ぐらいだった。

 観測・研究用という意味での打ち上げロケットの需要は、人工衛星の登場で大幅に減ったが、それでも気球(浮力の限界が現在50km程度で、現実の観測では40kmが限界)や人工衛星(空気抵抗で200km以下の高度だと寿命が非常に短い)ではまともに観測出来ない40kmー200km領域を直接観測する唯一の手段で、しかも無重力実験(生物や合金など)の大部分を人工衛星よりはるかに安価でできることから、一定の需要がある。

 もっとも、レーダーなどのリモートセンシング技術が地上施設と人工衛星の両方で大きく進歩したために、超高層観測の打ち上げロケットは非常に回数が減っており、実は私の勤めるIRFでも、過去に主導したのは1987年が最後だ。エスレンジ宇宙基地(*1)が研究所から車で30分程度しかかからない距離にあるにもかかわらずである。

 *1 エスレンジ宇宙基地は、欧州宇宙機関(ESA)の前身の欧州宇宙研究機構(ESRO)のロケット発射場として1964年に設立された。1972年にスウェーデン宇宙公社(SSC)に移管されたのち、成層圏気球の打ち上げ基地(1974年以降)や人工衛星の追跡基地(1978年以降)などの機能を加えた宇宙基地となっている。筆者の住むキルナ市から車で40分ほどにあるが、敷地自体は6600平方キロ(京都府と大阪府 を合わせた程度)で、打ち上げたロケットを地上(雪上)で回収出来るメリットがある。既に500機以上のロケット(うち約3分の1が1966ー1972年の短い間に打ち上げられた)と500個以上の気球を打ち上げており、ロケットの回収が必須な無重力実験では世界で最も使われている打ち上げロケット発射場だ。エスレンジの重要性は年々増大し、今では日本・フランス・ドイツなどが自国専用の施設をエスレンジ宇宙基地の中や隣接した場所に持っている。来年には欧州の宇宙基地としては初めての人工衛星打ち上げに挑戦する予定で、その落成式が欧州委員会の閣僚級会議(2023年1月、キルナ市)の期間中にあった。

人工オーロラ 1960~70年代に盛ん

 そんな中、去る3月23日に、IRFは打ち上げロケットによる

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