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医師不足を深刻化させた「日本的働かせ方」

竹信三恵子

竹信三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授

 医師不足が社会問題として広く認識されるようになり、厚生労働省の調査結果も先月末に報道された。医師不足は医療サービスの劣化だけでなく、勤務医の苛酷労働という面でも大きな問題だ。今月19日まで朝日新聞「働く」面で「専門職エレジー」という企画記事を取材して感じたのは、事態をそこまで深刻化させた背景に、「日本的働かせ方」があったのではないかということだ。

 日本の労働市場には、同一価値労働同一賃金を図るモノサシがない。終身雇用の会社人間を基本としてきたため、会社を越えて職務の価値を計る仕組みが発達しなかったからだ。仕事の質を計る習慣が根づいていないため、「労働の質」より、長時間働くという「労働の量」で働き手を評価しがちになる。質のいい仕事を生み出すために労働環境を改善するより、働き手のモラルに依存する姿勢も目立つ。そのかげには、働き手を支える労組などの組織がきわめて弱く、現場で起きている問題点を、働く側から指摘しにくいという構造がある。

 こうした風土に専門職が置かれると、事態はより悪くなる。専門職は、「専門知識を活かして公共に奉仕する」という志向が強く、仕事の質にこだわりがちだ。組織に質を担保しようという意識が薄ければ、自力でこれを行おう踏ん張り、負担は過重になる。命を預かるなど、「聖職」的な側面が強い仕事だと、この負担はさらに強まる。

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