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TPPで米農業は壊滅するのか? 農水省試算の問題

山下一仁

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 農林水産省は「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」TPPに参加すると、8兆5千億円の農業生産額は4兆1千億円も減少し、食料自給率は40%から14%に低下する、また洪水防止や水資源の涵養などの農業の多面的機能は3兆7千億円も減少するという試算を公表した。

 しかし、この試算は意図的に影響額を多くした作為的なものだ。

 第一に、データのとり方である。生産額の減少のうちの半分の2兆円が米についての影響である。米農業は安い海外からの米によってほぼ壊滅するとしている。日本が中国から輸入した米のうち過去最低の10年前の価格を海外の米の価格として採り、内外価格差は4倍以上だとしている。しかし、次の図が示す通り、中国から輸入した米の価格は10年前の60キログラム当たり3000円から直近の2009年では1万5百円へと3.5倍にも上昇している。一方で国産の米価格は1万4千円くらい、最近では1万3千円に低下しており、日中間の米価は接近している。内外価格差は1.4倍以下である。

 農水省はこのような低い価格を採った理由を、SBS方式で輸入される価格は輸入数量が限られているため割高となる傾向があり、中国現地価格よりも高いため、過去最低のSBS価格を採用したとしている。

 しかし、数量が限られていれば割高になるという理屈は誰にもわからないだろう。SBS方式とは輸入業者と実需者が連名で入札するもので、国内での販売価格と輸入価格の差を国庫に納入するというやり方である。その差が大きいものから輸入の権利を落札できる。ということは、落札したい業者は、国内でできる限り高い価格での売れ先を見つけ、出来る限り安い価格で輸入することにより、その差を大きくしようとする。この方式で実現された輸入価格は、日本産と品質面で競合する中国産米の最も低い輸入価格と考えるのが論理的である。そもそも、日本の消費者が食べている米は中国の街中で消費されている米と同じ品質のものではない。より高い品質の米であり、現地の米の平均価格と比較するのは不当である。また、SBS方式が割高になるというのであれば、過去のものとはいえ何故SBS方式で輸入された米価格を採用するのか理解に苦しむ。

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